次に、EVについては、「部品点数が大幅に減るので、誰でも組み立てられるようになる」「PCと同じことが自動車産業でも起こる」といった議論があります。それゆえ既存の自動車メーカーは不利になるという話ですが、本当でしょうか。

 従来型の自動車とEVを比べると、動力発生源として内燃機関を使うか、モーターかという違いはありますが、それ以外はほとんど変わりません。サスペンションやステアリング、ボディの形状や機能は同じです。求められる安全性や乗り心地も同様でしょう。

 しかも、電池の進化はそれほど速くありません。私が専門家に聞いたかぎりでは、大多数が「電池はそう簡単には軽くならない」「将来的にはPHV(*1)が主流になるだろう」と見ています。

 モーター技術に関しても、トヨタやホンダをはじめとする日本メーカーにはHEV(*2)以降の蓄積があります。こうしたメーカーのエンジニアたちは、いまも懸命にモーター技術を磨き続けています。

 EVが自動車市場全体で大きなシェアを獲得するとは思えませんが、近距離向けの乗り物としては一定の存在感を示す可能性はあります。自宅や営業所の周囲数十キロ圏を走行するだけなら、電池の残量はさほど気になりません。

 以上のようなことから、日本の自動車産業は当分心配ないと私は見ています。ただし、これは技術経営の視点からの考察です。経営そのものに関して、私は日本メーカーの強さを確信するに足る材料を持ち合わせていません。自動車メーカーの経営陣が、エレクトロニクスメーカーの失敗から正しく学んでくれることを願っています。

*1 外部電源から充電できるタイプのハイブリッド自動車。plug-in hybrid vehicleの略。
*2 モーターとエンジンを使い分けて駆動するハイブリッド電気自動車。hybrid electric vehicleの略。