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連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』はこちら。
【おすすめ記事】優秀なリーダーと評価される人の「ものの見方」とその限界:スザンヌ・クック=グロイターの「自我発達理論」で捉える①
優秀なプレーヤーほど、昇進直後につまずくことがある
現場で高い成果を出していた人が、管理職に昇進した途端に、以前ほど力を発揮できなくなることがあります。
プレーヤー時代には、自分で考え、自分で動き、自分で成果を出していて、顧客対応も早く、資料の完成度も高く、周囲からの信頼も厚かった。上司から見ても、「この人なら次のリーダーを任せられる」と思える存在だったかもしれません。
ところが、いざ部下を持つ立場になると、急に様子が変わることがあります。部下に任せられず、自分で仕事を抱え込む。細かいところまで口を出してしまう。部下の失敗を待てず、途中で手を出してしまう。会議では一人で話しすぎ、チームメンバーの考えを引き出せない。本人は以前よりも忙しく働いているにもかかわらず、チーム全体の成果は思うように伸びない。
このような状況を見ると、周囲は「管理職としての能力が足りないのではないか」「リーダーには向いていなかったのではないか」と考えたくなります。本人もまた、「自分はマネジャーに向いていないのかもしれない」と自信を失ってしまうことがあります。
しかし、昇進直後のパフォーマンス低下を、すぐに能力不足と見なすのは早計です。なぜなら、そこで起きているのは、能力が急に失われたというよりも、これまで能力を発揮してきた枠組みが、新しい役割に合わなくなっている可能性があるからです。
リーダーになると、プレーヤー時代とは求められるものが変わります。自分が直接成果を出すだけではなく、部下を通じて成果を生み出す必要があり、自分の仕事の質を高めるだけではなく、チーム全体の仕事の質を高める仕組みをつくる必要があります。さらに、自分が正解を出すだけではなく、部下が自分で考え、判断し、成長できる環境を整える必要があります。
つまり、昇進とは、単に肩書きが変わることではなく、仕事の見え方、成果の捉え方、他者との関係性、時間軸が変わることです。にもかかわらず、本人の内側では、プレーヤー時代の成功を支えていた枠組みがそのまま残っていることがあります。
その時、過去の成功体験は資産であると同時に、新しい役割への適応を妨げるものにもなります。「自分がやったほうが早い」「自分ならもっと正確にできる」「部下に任せると品質が下がる」「失敗されると自分の評価が下がる」。こうした感覚は、リーダー本人の責任感から生まれていることもあります。しかし、それが強くなりすぎると、部下の成長機会を奪い、チーム全体の自律性を弱めてしまいます。
したがって、昇進直後のつまずきを考える際に重要なのは、「その人には能力があるかないか」と問うことではありません。むしろ、「その人がこれまで能力を発揮してきた枠組みは、新しい役割に合っているのか」と問うことです。ここに、成人発達理論の視点を用いる意味があります。
問題は「能力不足」ではなく、「文脈の変化」にある
カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を踏まえると、人のスキルは文脈から切り離された固定的な能力ではありません。ある人が一つの場面で高い力を発揮していたとしても、その力が別の場面で同じように発揮されるとは限らないのです。スキルは、その人が置かれている環境、関わる相手、求められる課題、本人の感情や動機と結びつきながら発揮されます。
【参考記事】リーダーは自分の能力を「できる」「できない」で判断してはいけない:カート・フィッシャーの「ダイナミックスキル理論」で捉える①
この視点から見ると、昇進直後のパフォーマンス低下は、とても自然な現象として理解できます。なぜなら、プレーヤーとして成果を出していた文脈と、リーダーとして成果を出す文脈は、大きく異なるからです。
プレーヤー時代には、自分がどれだけ速く、正確に、質の高い仕事をできるかが重要でした。自分の判断力、自分の専門性、自分の行動量が、成果に直接結びついていました。もちろん、周囲との協働も必要ですが、最終的には自分の仕事をどれだけ高い水準で遂行できるかが評価の対象だったといえます。
しかし、リーダーになると、成果の出し方が変わります。自分が直接動いて成果を出すだけではなく、チームメンバーが力を発揮できるようにすることが求められます。部下の判断力を育てること、役割分担を設計すること、チーム内の関係性を整えること、短期的な成果と中長期的な育成を両立させることが必要になります。






