しかし、親和動機の強い人は、人から嫌われることに対する抵抗感があり、こうした葛藤を無意識のうちに避けたり、問題を先送りしたりすることが多い。こうしたタイプの人が素のままでリーダーシップを発揮すると、いい人ではあるが、いざというところで弱いリーダーと見られることが多い。これを乗り越えるためには、考え方の異なる人や利害の対立する相手に対して感じる不安感・恐怖心を、克服することが必要になる。ここでも時間をかけた訓練が求められることになる。

 最後に、「パワー動機」の強い人は、他人から認められることが喜びになる。このため、多くの人の価値観に影響を及ぼし、社会的に意味のあることを成し遂げようとする傾向がある。そのためであれば、意見の対立する相手に自ら歩み寄り、我慢強く説得することが苦にならない。このため、パワー動機の高い人は、大きな組織を動かすリーダーとしての役割に向くといわれる。

 ただし、物事には必ず表裏がある。パワー動機が「手っ取り早く目立ちたい」という方向に出てしまうと、仕事の面でも家庭生活の面でもうまくいかなくなることが分かっている。また、パワー動機とはやっかいなところがあり、ある時までは理想的なリーダーシップを発揮していた人が、トップに立った途端に目立ちたがり屋に変わったりすることがある。豊臣秀吉がかつてそうだったのかもしれない。このため、パワー動機の強い人は、自己の欲求を押さえる術を身につける必要がある。

決心しただけでは変わらない
無意識の世界を変えるには

 こう考えてくると、優れたリーダーシップを発揮するには、自分の情動をコントロールするために、我慢や勇気が必要になることがわかる。実際、リーダーシップの領域においては、「これが絶対正しい」という信念が、実は単なる思い込みにすぎず、大失敗につながることも少なくない。逆に、「本当にこれでいいのだろうか」と悩みながらやっている人が、望ましい型にはまった動きをしていたりする。