このように考えると、このアプローチは、多くの場合、3~5年周期で次々に新しい手法・技法を導入し続けることで、全体として改善活動を長期間継続させようとするアプローチです。そして、残念なことに、このアプローチは、旧来採用した手法・技法と新規に採用した手法・技法の間に、あまり関連がないケースが一般的です。他社で効果が出ているかどうか、流行の手法・技法であるかどうかが採用する際の基準になりがちなので、関連のある方が稀かもしれません。

 こうなると、改善活動を行っている現場は、「せっかく頑張って1つの手法・技法をマスターしたのに、また新しい手法か?」ということになり、徐々にやる気を失い、徒労感だけが蓄積していくことになります。あるいは、新しい手法を次々に導入したがるスタッフに対して、現場は辟易してしまい、静かな抵抗勢力になって形だけ新しい手法・技法を導入している「ふり」をするかもしれません。いずれにしても、活動の継続とともに、現場はどんどん疲弊し、消耗していく結果になります。このアプローチを消耗型改善と名付ける所以がここにあります。

 このような消耗型改善を通じて蓄積されるものは、特定の手法・技法に特化した改善ノウハウ・解決手段です。採用した手法・技法をマスターすることが目的になりやすいために、手法・技法に適合した問題は効率よく解けるように訓練されます。いわば、小中学校で数学の公式を覚えることで、公式が適用できる範囲内の問題は、素早く正確に解くことができるようになるのと同じです。

 そのため、このような消耗型改善は、ある程度、組織に改善活動が定着するまでの導入期・過渡期に採用されるケースが多く見られます。いくつかの手法・技法を徹底的にマスターすることは、短期的にそれなりの効果に結びつくし、その手法・技法が適用できる範囲内の問題を解く能力は確実に蓄積されるので、必ずしも悪いとは言えません。

 しかし、このタイプの改善活動に決定的に欠けているものは、日常業務を通じて自ら困っている問題を発見し、その問題の解決に向けて粘り強く問題を問題として認識し続ける姿勢です。消耗型改善では、手法・技法に適合した問題を取り上げ、それを素早く正確に解決する能力は高まるが、それ以外の問題はそもそも視野に入りません。いわば特定の手法・技法で解ける問題だけを解いている結果になりかねないのです。そのため、実は組織としてはもっと重要な解くべき問題があっても、採用した手法・技法が適用できない問題であると、いつの間にか問題を問題として認識せず、問題の先送りが組織的になされるという矛盾に陥ってしまう可能性があるのです。