部下を成長させる上司は何が違うのか:成人発達理論で考える「育てる力」の正体
iStock/runeer
サマリー:部下を成長させる上司は、単に正解を教えるだけではない。部下の発達水準を見極めて適切な支援を行っている。部下を支援する際に重要になるのが、自立するまで段階的に支援する「足場かけ」だ。また、部下を自身の型にはめず、それぞれの仕事の捉え方に応じた関わりが求められる。本稿では、成人発達理論の観点から、部下の成長を促す育て方と具体的な関わり方について解説する。

連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』こちら

【おすすめ記事】正解のない問題への対応力が高まる、正しい「振り返り」の方法

部下を成長させる上司は、単に「教える」だけではない

「部下を成長させる上司」というと、業務に必要な知識や手順を教えたり、過去の経験から得た知恵を伝えたり、部下が迷った時に助言したりする人を思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらは上司の大切な役割です。

 しかし、成人発達理論の観点から見ると、部下を本当に成長させる上司は、単に正解を教える人ではありません。むしろ、部下がいまどのような枠組みで仕事を理解しているのかを見極め、その枠組みが少し広がるように関わる人です。

 同じアドバイスをしても、部下によって受け取り方は異なります。ある部下は、上司の期待に応えようとして、その言葉を正解として受け取ります。別の部下は、自分の成果を高めるためのヒントとして受け取ります。また別の部下は、上司の助言を一つの視点として捉え、自分なりに再構成しようとします。

 つまり、部下の成長支援では、「何を伝えるか」だけでなく、「相手がどのような発達上の現在地にいるのか」を見極める必要があります。上司がどれほど優れた助言をしても、部下の現在地に合っていなければ、それは成長の支援ではなく、単なる押しつけや放任になってしまいます。

「教える上司」は、答えを渡します。一方、「育てる上司」は、部下が自分で答えを形成できるように支援します。答えを教えることが不要なのではありません。必要な場面では、明確に教えることも重要です。しかし、部下の発達を支援するという観点では、上司の役割は、部下が自分の見方、判断基準、行動の幅を広げていけるように関わることにあります。

部下の成長を促す上司は、適切な「足場かけ」を行う

 カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を踏まえると、人の能力は固定的なものではなく、ある場面では高い力を発揮できる人が、別の場面では十分に力を発揮できないことがあります。反対に、一人では取り組むのが難しい課題でも、適切な支援があれば、一段高い力を発揮できることがあります。

【参考記事】パフォーマンスが安定しない部下をどう育てるべきか:カート・フィッシャーの「ダイナミックスキル理論」で捉える②

 この視点は、部下育成において非常に重要です。部下の能力を「できる」「できない」で二分するのではなく、「どのような条件があればできるのか」「どのような支援があれば、少し上の水準に届くのか」を見極める必要があるからです。

 ここでカギになるのが、「足場かけ」(スキャフォールディング)です。足場かけとは、部下がまだ自力では十分にできない課題に取り組む際に、上司が一時的な支援を与え、部下が少しずつ自力でできるようにしていく関わりです。

 たとえば、部下にいきなり重要な顧客への提案をすべて任せると、負荷が高すぎるかもしれません。だからといって、上司がすべて代わりにやってしまえば、部下は成長しません。そこで、最初は提案の骨子を一緒に考える。次に、部下に案をつくってもらい、判断基準を一緒に確認する。さらに、部下自身が顧客に説明し、上司は必要な場面だけ支援する。最後には、部下が自分で判断し、振り返りまで行えるようにする。このような段階的な支援が足場かけです。

 重要なのは、足場はいつまでも残すものではないという点です。上司が支援し続けるだけでは、部下は上司に依存してしまいます。足場かけの目的は、部下を支援することだけではなく、やがて支援を外していくことにあります。最初は上司と一緒にできていたことが、次第に部下自身でできるようになる。その移行を設計できる上司が、部下を成長させられる上司です。

自我発達理論で見る、部下の発達段階と上司の関わり方

 スザンヌ・クック=グロイターの自我発達理論を踏まえると、人は同じ仕事をしていても、仕事の意味づけ方が異なります。ある人にとって仕事とは、上司に認められるためのものかもしれません。別の人にとっては、自分の成果や有能さを示す場かもしれません。さらに別の人にとっては、組織や顧客、社会の文脈の中で価値を生み出す営みとして捉えられているかもしれません。