「叱れない上司」が「部下を成長させる上司」に変わる最初の一歩:成人発達理論で考える指導法
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サマリー:現代の職場において、上司による感情的な叱責や威圧的な指導は、避けるべきものと考えられていることの影響から、本来行うべき注意まで避ける「叱れない上司」が増加している。しかし、一見すると優しいこの態度は、部下の成長機会を奪い、チームの学習を停滞させるおそれがある。指導を先送りする背景には、関係悪化や嫌われることへの恐れといった上司の内面的な葛藤が存在する。本稿では、成人発達理論の観点から「叱れない」背景にある葛藤の構造をひも解き、関係を壊さずに部下の成長課題を共有する指導の変え方を解説する。

連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』こちら

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「叱れない上司」は、本当に部下に優しいのか

 現代の職場では、感情的な叱責や威圧的な指導は避けるべきものとされています。かつてのように、上司が一方的に怒鳴り、部下を萎縮させるような関わりは、部下の成長を促すどころか、心理的安全性を損ない、組織学習を妨げます。その意味で、部下を頭ごなしに叱らない上司が増えていること自体は、望ましい変化だといえます。

 しかし、その一方で、必要な注意をすることまで避けてしまう上司も増えています。部下が同じミスを繰り返しても指摘しない。会議で不適切な発言があっても流してしまう。周囲に悪影響を与える行動があっても、本人に直接伝えない。こうした状態が続くと、部下は自分の課題に気づく機会を失います。周囲のメンバーも、「なぜあの行動が放置されるのか」と不満を募らせていきます。

 このような上司は、一見すると優しい人に見えるかもしれません。部下を傷つけたくない。関係を悪くしたくない。心理的安全性を大切にしたい。そうした思いそのものは、けっして悪いものではありませんが、必要な指導を避け続けることは、必ずしも優しさではありません。むしろ、部下の成長機会を奪い、チーム全体の学習を遅らせることがあります。

 ここで確認しておきたいのは、「叱る」と「感情的に責める」は違うということです。本稿で扱うのは、怒りをぶつけることではありませんし、部下の人格を否定することでもありません。必要な事実、行動の影響、今後への期待を、相手の成長につながる形で伝えることです。

 部下を育てる上司には、この力が欠かせません。言いにくいことを避けるのではなく、言い方を発達させること。関係を壊さないために沈黙するのではなく、関係を成熟させるために必要な言葉を伝えること。成人発達理論の観点から見ると、「叱れない上司」の課題は、単に厳しさが足りないことではありません。葛藤をどのように意味づけ、どのように扱うかという、発達上の課題なのです。

注意できない背景には、葛藤を避ける発達上のパターンがある

 部下に注意しなければならない場面では、上司の内側に葛藤が生じます。言うべきことはわかっている。しかし、言えば相手が傷つくかもしれない。反発されるかもしれない。関係が悪くなるかもしれない。厳しい上司だと思われるかもしれない。こうした不安が生じると、上司は必要な指導を先送りしたくなります。

 この葛藤を理解するうえで参考になるのが、発達心理学者サスキア・クネンの理論です。クネンは、人が葛藤や違和感にどのように反応するかに注目しました。葛藤は、発達のきっかけになりえますが、葛藤が自動的に成長を生むわけではありません。人は葛藤に直面した時、それを既存の枠組みに取り込もうとしたり、葛藤そのものから距離を取ったり、あるいは自分の枠組みを調整したりします。

「部下を注意できない」上司も、まさにこの葛藤場面に置かれています。部下に伝える必要がある。しかし、自分は部下を尊重する上司でありたい。強く言う人だと思われたくない。心理的安全性を損ないたくない。こうしたさまざまな思いがぶつかります。

 この時、上司が自分の葛藤を見ないままにしておくと、注意しないことが正当化されていきます。「もう少し様子を見よう」「本人もわかっているはずだ」「いま言うと逆効果かもしれない」と考え、指導のタイミングを逃していきます。もちろん、タイミングを選ぶことは重要です。しかし、毎回先送りするのであれば、それは配慮ではなく回避です。

 成人発達理論の観点から重要なのは、上司が葛藤をなくすことではなく、葛藤を発達の材料として扱えるようになることです。注意することへの抵抗を、自分の指導観を更新するきっかけにできるかどうか。ここに、「叱れない上司」が変われるかどうかの分岐点があります。

クネンの理論を通じて見る葛藤への3つの反応

 クネンの視点を用いると、部下を注意できない上司の反応は、大きく3つに整理できます。それは、「同化」「撤退」「調節」です。

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