イメージとメタファーを使って感情を捉える

 どのようにすれば言葉に変換される前の感情を捉えることができるのでしょうか。実は、いま試していただいたプロセスをインタビューに組み込むことで可能になります。例えば「お昼ご飯の経験を深く理解する」というトピックなら、対象者に「お昼ご飯を食べるときの気持ち」をイメージしてもらい、そのイメージについて語ってもらうのです。

 インタビューの1~2週間前に「お昼ご飯を食べるときの気持ち」に関する画像を収集する等の事前課題をお願いします。事前課題をしてもらうことで、対象者のトピックに対する感受性を高めておくことができます。インタビュー当日、1人の対象者が「お昼ご飯を食べるときの気持ち」を表現するために「遠足」のイメージを持ってきました。インタビュアーは、持ってきたイメージが何か確認し、バイアスのないオープンエンドな質問で「お昼ご飯を食べるときの気持ち」を深く聞いていきます。

(I:インタビュアー R:対象者)
I:このイメージは何ですか?
R:これは遠足の写真です。
I:遠足が、お昼ご飯を食べるときのあなたの気持ちをどのように表現していますか?
R:遠足で、みんなでお弁当を食べるのって楽しいじゃないですか。おやつを交換したり、お弁当の中身を見せ合ったり。それが同僚とランチに行くときの気分に似ています。

 「遠足」のイメージを使って語ることで、対象者はお昼ご飯を食べるときの言葉にしにくい感情を表現することができます。インタビュアーは、ラダーリングというテクニックを使って「第4回:設計をリフレームする」で説明した3つのゴールのつながりを把握していきます。

I:遠足でお弁当の中身を見せ合うというのは何を意味しますか?
R:ランチで同僚と話をして、お互いのことがもっとわかるようになるということです。
I:お互いのことがもっとわかるとどんな気持ちになりますか?
R:心が通じ合っている気持ちになります。
I:心が通じ合っている気持ちになることにはどんな意味がありますか?
R:仕事の一線を越えた関係になるということですかね。

 対象者の発言の中に「心が通じ合っている」「一線を超えた」といったメタファーが表れます。インタビュアーは興味深いメタファーを選び、発展させることで、そこに隠れている意味を探索します。

I:一線って何を意味しますか?
R:仕事とプライベートとか、他人と自分を分ける線ですね。
I:どんな線ですか?
R:立ち入り禁止のロープみたいなものですかね。
I:どこに張ってあるのですか?
R:社内のいたるところに張ってあります。
I:誰が張ったのですか?
R:みんな勝手に張っちゃうんですよね。会社もそれを放置しているというか・・・

 顧客の感情を理解するうえで、メタファーには大きな意味があります。わたしたちの思考や行動はメタファーによって構造を与えられていると考えられているからです。ジョージ・レイコフは『レトリックと人生(大修館書店)』で以下のように述べています。「日常茶飯の事柄の大部分は、程度の差はあれ、ある一定の手順にしたがって無意識に行動しているだけである。そのある一定の手順とは一体何であるかと言えば、これが容易には実態がつかめない。言語活動を観察することが、それを明らかにするひとつの方法なのである」。メタファーについては、次回さらに詳しくご説明したいと思います。