ICT業界の非連続的イノベーションとは
たとえばアマゾン。アマゾンが創業した当時を思い返してみよう。インターネットは爆発的に普及する。世の中の人々がインターネットを使うようになれば、ネット経由でモノが売れる(つまりはEコマース)。Eコマースに向いている商品カテゴリーは何か。そのひとつは本ではないか……。「インターネットで本を売る」、ここまでは誰もが思いついくビジネス・アイデアだった。だから無数の企業が書籍のEコマースに雪崩を打って参入した。アマゾンはその1社に過ぎない(さらに言えば、アマゾンはとりたてて「先行者」であったわけでもない)。
ところが多くの企業は、「24時間365日店を開けておける」「顧客の地理的なリーチが格段に広がる」「店舗に物理的な制約がないので、品ぞろえを無限に広げられる」、こうしたことをリアルな店舗での販売に対するEコマースの優位と考えて商売を始めた。
こうしたその他大勢の本のEコマースの会社は、その後アマゾンに駆逐されてしまった。非連続的なイノベーションがなかったからだ。インターネットそれ自体はきわめて非連続的な技術であり、どこからどう見てもイノベーションであったことはいうまでもない。インターネットを使ってはいるものの、しかし、多くのEコマース企業がやろうとしたことは、既存のリアル店舗の本屋さんでも「やろうと思えば(ある程度までは)できること」だった。
たとえば「24時間365日」にしても、リアルの本屋の多くが「やっていないだけ」だ。やろうと思ったらリアル店舗でもできる。きわめて大きな敷地に巨大な書店をつくれば、相当程度まで品ぞろえは拡張できる。Eコマースをやる以上、既存の書店でも「やろうと思ったらできてしまうこと」には意味がない。それが創業者にしていまでも経営者のジェフ・ベゾスさんが考えたことだった。