アマゾンの意図した非連続性
アマゾンのコンセプトは「顧客の購買意思決定のインフラ」になることにあった。本やCDやDVDやおもちゃ、こうしたやたらと種類が多いものの中から、顧客が比較し、自分の欲しい商品を探し、発注して、決済する。本やCDという商品を売るのではなく、一連の購買(とそれに伴う意思決定)を支えるインフラをつくって提供する。ここにビジネスの本質があるというのがベゾスさんの慧眼だった。
アマゾンが小売りの世界に持ち込んだ非連続性は、一言で言えば「これまでとはまったく異なる売り場」にあった。顧客がアマゾンの店舗に入ってくる。すると、その途端に本屋さんのフロア構成から棚の配置が、その特定の顧客に合わせて一瞬にして変わる。0.1秒後に別の顧客が店に入ってくる。途端に、今度はその新しい顧客に合わせて書棚の配置が一斉に変わる。しかも一人ひとりの顧客に合わせて、そのお客さんが好みそうな本を勧める販売員が来店する顧客全員にアテンドする。こうした売り場づくりは、これまでのリアルな書店が宙返りしてもできないことだ。ここにアマゾンの意図した非連続性があった。アマゾンが数多の「ネット書店」を駆逐してEコマースの帝王として君臨することになったのは、そのビジネスが真の意味でのイノベーションだったからだ。
アマゾンはICTがもたらす機会をうまくとらえ、そこからイノベーションを実現した成功例の典型だ。このように変化が激しい世界では、成熟産業と比べて「機会が豊富」なのは間違いないが、しかし、成熟業界では逆の理由で、変化が激しい業界ほど、実際に機会をものにしてイノベーションを起こすのが難しくなる面がある。なぜか。単純に非連続性を追求するだけでは顧客に受け入れられないからだ。
冒頭に挙げたイノベーションの2つ目の本質、「顧客が受け入れてこそのイノベーション」ということをよくよく考えると、「非連続の中の連続」―――非連続性の中に一定の連続性が確保してあるということ―――ここにイノベーションの妙味というか面白いところがある。視点を変えれば、アマゾンのやったこと(やろうとしたこと)は、一面ではきわめて保守的であり、連続性を重視していたともいえる。それが何かということについては、また次回。
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