近未来の経済大国インドは、期待も大きいが複雑な仕組みの国でもある。対応に苦慮すべきことも多いがそれだけの可能性もある。リバース・イノベーションを提唱したゴビンダラジャンがインド・ビジネスの要諦を示す。

 

 インドは新たな経済大国として急浮上してきたが、世界で最も複雑な国の1つでもある。現在、マンモハン・シン首相が唱える「良い経済は良い政治」というスローガンのもと、インドは新たな改革を打ち出しており、1991年7月の革新的な「インド開放」以来最も有意義なステップとして多くの期待を集めている。これには小売や航空、放送、電力といった分野の改革も含まれている。

 小売分野の変化は特に顕著で、ウォルマートやイケア、テスコがインド国内の小売業者と競争できるようになった。また、複数のブランドを扱う小売業(MBR)への海外直接投資(FDI)も51%まで認められるようになった。参加するかどうかの判断は州政府に委ねられており、これまでに10州が参加を決定している。だが、これには制限もある。たとえば、小売店舗を開設できるのは人口100万人以上の都市に限られる。最低投資額1億ドルの条件も設定されている。また、FDIの導入から3年以内にFDI総額の50%以上を「バックエンドインフラ」に投資しなければならない。

 では、企業はこの新しい現実にどう対処すべきなのか。ここで重要なのは慎重さである。新首相の改革案に対する政治的な反動もすでに起きている。多国籍企業が成功するにはインド国民の不安を解消することが不可欠である。また、グローバルな資源と能力を活用してインドの都市部と地方の両方を改革し、富裕層だけでなく、中流層と貧困層の生活も改善しなければならない。ここではインド進出をめざす企業が考慮すべき事項をいくつか紹介する。

市場選択

・インドで小売業を始める州をどのように選択するか。
・どのようなインフラのニーズが存在し、自社が構築すべきインフラはどれか。
・競合他社は何を計画しているか。
・自社に最適な現地のパートナーは誰か。
・どのようにして信頼を築き上げ、市場参加者の健全性を確認するか。

インクルーシビティ(包含性)

・インクルーシビティの問題に取り組んでいるか。
・自社事業が、家族経営のキラナ(訳注:食料品や日用品を取り扱うインドの伝統的な小売店)にどのような影響を及ぼすか。
・キラナを自社の流通経路に取り込む方法はあるか。
・地域社会はどうなっているか。
・他の新興市場(ブラジル、メキシコ、ケニヤなど)から何を学べるか。

現状打破

・自社の存在によって最も影響を受けそうな利害関係者は誰か。
・どのような動的なチェンジ・マネジメントの方法を採用すべきか。
・現地の政治状況をどのようにして監視・把握し、それとどのように関わるか。
・取引業者と現地パートナーの事業をどうすれば改善できるか。消費者はどうか。

ビジネスモデル改革

・どうすれば多国籍企業が「小規模店舗」のフォーマットで革新的なビジネスモデルを開発して利便性を高めながら、購買における規模の経済と効率的なサプライチェーンによって消費者に低価格を提供できるか。
・現地の顧客は何に価値を見出すのか。
・顧客が必要とする製品やサービスをどのように提供するか。
・搾取することなく販売する責任ある方法とは何か。
・どうすれば自社のビジネスモデルへの信頼を築き上げることができるか

ブランドの健全性と透明性

・顧客の利益を最優先しながら顧客をどのように教育するか。
・どうすれば自主的に自社のサプライチェーンを監視できるか。
・特にパートナーや取引業者との関係において、海外腐敗行為防止法(FCPA)や児童労働法をどのように遵守するか。

文化的な認識

・どうすれば植民地支配的な考え方を回避できるか。
・地域社会のリーダーとの協働に我々がどんな影響を及ぼすか。
・地域の伝統を尊重しながら、グローバルな価値観を維持するにはどうすればいいか。

 他にも、考慮すべき事柄を挙げればきりがない。だが、目をそらしてはいけない。チャンスは大きい。インド(および中国)での競争のやり方を習得した企業は世界中で一目置かれる存在になるだろう。

 インド商工会議所連合会(FICCI)は、インドの小売業界は2020年までに売上高1兆3000億ドルの市場に成長すると予測している。2010年、インドは経済自由度指数の世界ランキングで179ヵ国中124位にランクされた。現在、インドもグローバルな舞台に立ち、かなりランクを上げているに違いない。

原文:Open India: Considerations for Retailers September 25, 2012