米国経済が低迷し、ヨーロッパが危機的状況に陥る中、新興国市場の成長率も鈍化傾向にある。低成長時代における新たな成長の秘訣は、非顧客のニーズに応えることだろう。だが、どの非顧客をターゲットにすればいいのか。また、どうすればそのような人たちを知ることができるのだろうか。

 そうした機会のひとつは経済ピラミッドの底辺層に存在する。このサイトで最初に紹介した300ドル住宅 の開発計画は、非顧客に特有のニーズに応え、その理解を深めるプロセスの好例といえるだろう。

 この課題への取り組みの出発点は、まずターゲットが誰かを特定し、その痛点といえるものを正確に診断することである。

 300ドル住宅のプロジェクトでは、非顧客層および将来的な顧客層をインド地方部に特定した。それから我々は、この潜在的な将来の顧客層を観察し、その人たちと協力関係を築いて彼らの痛点と呼べるものを理解するように努めた。最初にサンプルとなる顧客のコミュニティーを特定し、インドで最も貧しいジャールカンドとビハール、ウッタル・プラデーシュの3州にある15の村から15世帯を選び出した。

 我々はある調査ツールを使い、15世帯を対象とする定性的な顧客調査を実施した。その際、いくつかの自由回答形式の質問を含む広範な内容のアンケートを実施し、潜在的な顧客が置かれている状況を詳しく理解するように努めた。また、面談やフォーカスグループ、観察(これが特に重要)を通じてさらにデータを収集した。

 この調査の目的は将来的な顧客のニーズを把握することだった。そして、これも重要なことだが、こうした顧客を慈善のための「ケーススタディー」として取り扱えないということを理解した。それよりも、我々にとって重要なのは、300ドル住宅とそれに関連する水道や電気、基本医療、教育などのサービスに対して、顧客がどれくらい積極的に支払うかを知ることだった。

 この調査ではさまざまな発見があったが、特筆すべきなのは次の5つである。

・清潔で安全な住環境、教育および雇用の欠如は地域社会が直面する最重要課題であるということに回答者全員が同意している。

・回答者全員が良い住宅に300ドルを支払うことに前向きであり、そのために借金をしても構わないと思っている。

・回答者全員が電気をお金で買いたいと思っている。水道や教育、医療など、他の基本的なサービスに関する回答はまちまちであった。

・回答者が挙げる良い住宅の基本条件は、2部屋以上、個室トイレ、電気、農作物や家畜用の小さな土地の4つである。

・理想的な住宅は、建坪400平方フィート(約37平方メートル)、高さ9~10フィート(約2.7~3メートル)、敷地面積500~550平方フィート(約46~51平方メートル)である。

 調査の結果、インド地方部の(将来的な)消費者は住宅だけではなく、各種サービスへの支払いにも積極的である、という300ドル住宅プロジェクトの主要な仮定条件も確認することができた。これは確かなビジネスチャンスである。

 この調査は第一歩に過ぎず、300ドル住宅を実現するまでの道のりはまだ長いが、このデータのおかげで、世界で最も貧しい人たちにとって「現実的な住宅」がどのようなものかについて理解を深めることができる。そうした人たちと直接関わることで、我々はどうすれば非顧客を顧客に変え、その人たちのニーズに応える現実的な価格の製品やサービスを提供できるかを理解するようになるだろう。

 低成長の時代に成長を模索する企業は、これと同様のやり方で非顧客の声に耳を傾ける方法を知るべきである。そこで、次の質問に答えてみてほしい。

・我々はどんな機会を失っているか。
・将来的な顧客の声にどうすれば耳を傾けられるか。
・将来的な顧客を製品開発に巻き込むことはできるか。まだ、どうすればそれが可能か。
・将来的な顧客の理想や希望を設計プロセスに採り入れているか。

 ピラミッドの底辺層をターゲットにした新しい製品やサービスの開発を模索する企業に、ひとつ重要な忠告をしておきたい。そうした将来的な顧客には、慈善事業としてではなく、敬意をもって接する必要があるということである。


原文:Get to Know Your Non-Customer August 10, 2012