急速に市場が拡大するインド。その攻略にどのグローバル企業も熱心だが、市場の特異性を忘れてはならない。決して中国で成功したモデルが成功するとは限らないのだ。本稿では、インド・ビジネスにまつわる主な4つの「誤解」を紹介する。

 

 プロクター・アンド・ギャンブルは今年(2012年)の第2四半期、インドでの売上高を21%以上も伸ばした。英国とオランダに本拠を置くユニリーバの一部門でインド最大の消費財メーカーであるHULも、9%の売上増を報告している。米国ミシガン州のアムウェイは2011年、インドで19%の年間成長率を記録している。

 こうした数字に魅了され、さらには小売や航空、放送、電力の分野で起きた改革の新しい波に後押しされるかたちで、それまでインドに目もくれなかったエグゼクティブたちがこぞってインドに注目するようになった。しかしその多くは、災難とはいわないまでも、真っ逆さまに落胆の沼にはまるに違いない。ここでは、確実に失敗につながるありがちな誤解を4つ紹介しよう。

誤解1:「インドは一枚岩の国である」

 政治的には、インドは主権を持つひとつの共和国である。しかし28の州で構成され、23の公用語がある。消費者市場でビジネスをする場合、インドはヨーロッパのような大陸であると考えたほうがいいだろう。

 たとえば、スキンケア製品を販売するとしよう。北部の州では冬になると寒冷で乾燥肌になるが、ムンバイやチェンナイなどの高湿度な都市では、乾燥肌という状態はありえない。また、北西部のハリヤナと南部のケララでは住民の肌質がまったく異なる。フレグランスの嗜好も地方によってまったく違う。インド南部では、主原料にターメリックとビャクダンを使用した石鹸〈サントゥール〉(製造元はインドのウィプロ社)が売上げナンバーワンを誇っている。ところが、北部や東部ではユニリーバの〈ラックス〉などのブランドのほうがはるかに人気が高い。

 しかも、インドの消費者はほとんどの製品カテゴリーを、社会階級の観点から見ている。自動車の例を挙げれば、トヨタの〈イノーバ〉などはアメリカの母親層に好まれるミニバンやSUVのスタイルを採り入れている。しかし、インドではそれが商用車やタクシーと見なされてしまい、金銭的な余裕があり、自尊心のある母親がそのタイプの自動車を購入することはまずありえない。母親層から見ると格下のクルマなのだ。

 インドでは単一の戦略にこだわるべきではない。州によって大きな違いがあることを理解する必要がある。

誤解2:「中国で得た教訓を活かそう」

 インド市場への参入計画を香港や上海、北京の支社に担当させる欧米の企業も多い。だが、トラブルを避けたいのならインドの管理はインドに任せるべきだ。

 インドのビジネス環境には中国と共通する部分がほとんどない。インドは声高で活発な自由出版が行われ、証券取引で125年以上の歴史を持つ民主主義国家である。コルゲート・パルモリーブやユニリーバ、プロクター・アンド・ギャンブルなどの企業はインド国内での資金調達に成功している。マスターカードやリーボックなど、インドで現地採用したマネジャーがマーケティングの責任者を務めている欧米企業の例もある。

 ここで忘れてはならないのは、中国はインドより10年から15年は進んでいるということだ。中国経済は70年代後半に自由化されたが、インドの自由化はようやく90年代初頭になってからである。また、インドが中国と同じような経過で経済発展をたどることもありえない。インドは、インフラや地理的条件、文化、言語、政府など、中国とは異なる条件で独自の問題に対処することになるだろう。