イノベーションを構築する最良の方法はトップダウンか、それともボトムアップか、という質問を受けることが多い。その答えは両方。時と場合によって異なる。ボトムアップのアプローチは漸進型(ゲームを継続する)イノベーションに有効だ。ブレークスルー型(ゲームのルールを変える)イノベーションは、一般通念に反して、トップダウンのアプローチを必要とする。

 では、漸進型イノベーションについて考察しよう。これは定番の(伝統的な)指標やステージゲート法などの開発システムを利用した短期的なイノベーションになる場合が多い。比較的ローリスク・ローリターンである。漸進型イノベーションは、担当者が顧客・消費者のことに精通し、利害関係者全員の意見と合意を得たコンセンサス重視のやり方で意思決定を行える場合、業務レベルで管理することができる。経営幹部が関与するのは、すでに整っているアイデアがそのまま上層部に提案されるときのみということも多いが、その必要さえない場合もある。ほとんどの企業がステージゲートのプロセスを採用している理由は、それが漸進型イノベーションに有効だからである。

 漸進型イノベーションは、クールでもセクシーでも、自慢できるものでもないという理由で軽視されがちだが、それは間違いである。これこそが販売する製品やサービスの実用的な価値と競争力を維持しているのだ。漸進型イノベーションはブレークスルー型イノベーションとも相性抜群である。それが成功すれば、よりハイリスクでハイリターンなブレークスルーの追求に必要な資金を生み出してくれるからだ。

 これには反論もある。漸進的なモデルを可能にしているあらゆる要素が、意図せずしてブレークスルーの可能性を抹殺している、というものだ。それはなぜか。コンセンサスや定番の指標がブレークスルーにとって致命的だからである。ブレークスルー型の指標や意思決定は正反対のやり方で応用されなければならない。本当に画期的な「生まれたばかり」のアイデアに定番の指標を使わざるを得ない場合、我々の友人であるジャイ・パープが言うところの「架空の数字」を作業チームで作成する。我々の顧客であるバイオテクノロジー企業では、CEOを筆頭とする経営幹部が「生まれたばかり」のアイデアについて正味現在価値の見積もりを提出するように求めた。つまり、彼らはゲームを変えるようなイノベーションをなぜ自社が開発できていないのかわかっていなかった。

 ここで提案しよう。アイデアが本当に画期的なものであれば、その評価(本当の意味でのブレークスルーのテスト)の基準となるものは何もなく、開発プロセスがかなり進行するまでは確実なベンチマークも定番の指標も使えない。ブレークスルーを追求する場合、「ファジー・フロントエンド」(FFE)での経験に基づく直観的な基準を、計画実行までに定番の指標に発展させなければならない。そして、ブレークスルーモデルの開発をインクリメンタルなモデルと並行して進める必要がある。

 ブレークスルーを追求する際の意思決定に関しては、ひとつの単純なルールがある。「目標を高く設定すればするほど、意思決定の役割がますます重要になる」というものだ。それはなぜか。ブレークスルーのフィールドでゲームを行うには、CEOを筆頭とする組織の経営幹部が率先してゲームに参加して重要な戦略的判断を行い、組織が変化に抵抗を見せ始めたときに、必要な人材と資金、時間、サポートを提供しなければならないからだ。すべての準備が整うのを待っていてはいけない。最初から、イノベーションの全段階を通じて作業チームと頻繁に連絡を取り合うことが必要だ。

 不合理性の中に価値を見出すように努めることも必要である。「ビッグアイデアかどうかは一目見ればわかる」というのは、イノベーションにまつわる最大の誤解のひとつ。大間違いである。「不合理でないアイデアに望みはない」と、アルバート・アインシュタインも述べている。不合理から始まるアイデアを刺激し、尊重し、擁護しないようなモデルが、その業界のゲームを変えることは絶対にないだろう。

 ほとんどの企業では、急進的で恐ろしくて不合理な「生まれたて」のアイデアは、いわゆる「バズーカ症候群」の洗礼を受けることになる。却下されるだけでなく、徹底的に攻撃されて跡形もなくなってしまう。大抵は善意ある経営陣の仕業であり、彼らがワークフローをきちんと把握していないことが原因だ(しかも、大方の予想と違い、彼らが狭量なわけでもない)。

 一般的なイメージと異なり、経営陣はブレークスルーの追求を妨害する敵ではない。無能な愚か者の集団でもない。間違っているのは、イノベーション・プロセスのあり方なのだ。


原文:Match Your Innovation Process to the Results You Want September 10, 2012