1つ目の理由は、「良い商品を提供すれば、必ず売れるはずだ!」という思い込みが強く、ターゲット顧客を明確にしてから商品を開発するという発想がないことです。1990年のバブル崩壊以前は、購買力が旺盛で、メーカーは自分たちで考えた「良い商品」を提供すれば確実に売れました。しかし、景気が後退すると、顧客は「本当に求めるモノしか買わない」ようになったので、いくら良い商品を上市しても売れなくなったのです。ターゲット顧客を決めなくても売れたのは、技術革新などによって誕生した、それまでに存在しなかった商品ぐらいです。
2つ目は、ターゲット顧客に限定して最初から間口を狭めるより、多くの顧客の関心を買えるよう間口を広げたほうが、売上増が見込めると考えることです。これは、「待ちの姿勢」であり、現在のように売上向上が難しい時代において、「攻める」戦略を講じるうえでも、ターゲット顧客を明確にする必要があるのです。
3つ目は、せっかくターゲット顧客を決めても、そのセグメントが成長していないため売上げが伸びないケースです。興味深いことに、企業は一度ターゲット顧客を決めると、環境に応じてそのセグメントに対する施策を変更することはありますが、最初に設定したターゲット顧客を変えることはほぼありません。成長していない顧客セグメントに対して施策を講じても、売上げが伸びなくて当然です。
中にはこんなアパレル会社もありました。その会社は対象顧客セグメントを決め、ターゲット顧客のニーズに合う商品ラインを提供し、接客態度も好評で多くの顧客から支持を得て成長してきました。ところが、ある時点から売上げが停滞し始めた。既存優良顧客の年齢層が高まるにつれて、商品ラインを顧客ニーズに合わせた結果、顧客セグメンテーションにズレが生じ、新規顧客を獲得できなくなったのです。もちろん、既存優良顧客の購買行動が変化し、購買力が低下したことも大きな影響を与えました。