この連載では、日本の企業や地域のマーケティングを念頭に、未来への挑み方を考えていきます。歴史を振り返ることは、有意義です。現状を精緻なデータで分析することも大切です。しかし、日本の産業や社会のあり方は、今大きく変化しようとしています。生起しつつある新たな秩序と共振する挑戦が求められていると思うのです。こうした挑戦を活発化するには、どのような認識や行動が必要となるかを、連載を通じて考えていきます。
制約のなかで新たな市場を拓く
日本企業を取り巻く経営環境は、厳しさを増す一方です。地域の地場産業にも、かつてのような活力はありません。グローバル企業はさておき、多くの日本企業の眼前にある国内市場については、デフレが続き、今後は確実に人口減少に向かうなど、問題が山積みです。

しかし、嘆くことばかりではありません。ここがマーケティングの面白さです。振り返ると、私たちのまわりには、こうした制約だらけの環境下にあっても、着実に新たな市場を拓くことに成功してきた一群の企業や地域が存在します。
では、これらの企業や地域は、どのようなマーケティングによって、制約の強まる市場に挑んできたのでしょうか。私たちは、その創造性の論理をとらえたいと考え、企業の事例調査に長けたマーケティング研究者と、臨床の場で人の心の問題と向き合ってきたセラピストのチームによる共同研究に取り組んできました。その成果の一端を取りまとめ出版したのが、『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣)です。(写真1)
なぜ儲かるかが、わからない
経験豊富なビジネスのプロが、「なぜ、あの事業が儲かるか、わからない」と言うのを聞くことがあります。たしかに、中には粉飾まがいのあやしい事業もあるのですが、それが全てではありません。
プロの分析力や洞察力といっても、所詮は人間が考えることです。実践のプロセスのなかで、この限界のあるロジックを乗り越える新たなロジック見いだしていく。これが企業や地域の創造性であり、成長よりは縮小がトレンドになっていく今後の国内市場のマーケティングで重要となる能力です。
私たちが研究の対象に選んだのは、こうした創造性のマーケティングの事例でした。もちろんこれらの事例は、今となってみれば、誰もが知る成功ストーリーです。しかし見逃してはならないのは、従前にはこれの事業の成功は確実視されていなかったことです。
ではなぜ、成功は予測しがたかったのでしょうか。