ゴビンダラジャンの調査によれば、多くの経営者はイノベーションの取り組みにおいて「ひらめき」、つまりクリエイティビティを重視しているようだ。しかしそればかりでは物足りない。
私は同僚のクリス・トリンブルと共同で調査を実施し、大勢の企業経営者にイノベーションの定義とは何かを尋ねてみた。その結果、イノベーションはクリエイティビティと同義である、という主旨の回答が目立った。しかし、イノベーションはクリエイティビティとは違う。クリエイティビティとは、ビッグアイデアを生み出すということだ。そしてイノベーションとは、そのアイデアを実行すること。すなわち、アイデアを事業として成功させることである。
我々が考える組織のイノベーション能力とは、
「実行(execution)×クリエイティビティ」
である。「加法」ではなく「乗法」を用いるのは、クリエイティビティまたは実行のスコアがゼロならば、イノベーション能力もゼロになるからだ。
クリスと私は過去10年間にわたり、「イノベーション戦略実行のベスト・プラクティスとは何か」というテーマについて研究してきた。我々の共著『イノベーションを実行する――挑戦的アイデアを実現するマネジメント 』はその成果である。
我々がクリエイティビティではなく、実行 の問題を取り上げた理由は次の通りだ。調査では多数のフォーチュン500企業を対象にイノベーションのスキルを10段階(1:劣っている~10:世界クラス)で評価してもらった。調査対象となった企業の大多数は、アイデアの商品化(平均スコア:1)よりアイデアの創造(平均スコア:6)のほうが得意である、と回答している。
では、得意とするクリエイティビティのスコアを6から8に引き上げるのと、苦手とする実行のスコアを1から3に引き上げるのでは、どちらのほうが効果的か。我々が考案した「クリエイティビティ×実行」の公式を使った簡単な計算法を紹介しよう。
イノベーションの能力:6×1=6
イノベーションの能力(クリエイティビティのスコアを引き上げた場合):8×1=8
イノベーションの能力(実行のスコアを引き上げた場合):6×3=18
勝負は明らかだ。企業は、イノベーションプロセスの表側であるクリエイティビティの向上ばかりに注意を向ける傾向がある。しかし、本当に大切なものはその裏側にある。