前回の記事で、イノベーションには机上の空論ではなく実行が最も重要であることを証明した。では実際に、実行段階でやるべきこと、やってはいけないことは何だろうか。今回は組織モデルのあり方に焦点を当てて解説する。
過去10年間にわたり、私は同僚のクリス・トリンブルと共同で「イノベーション戦略実行のベスト・プラクティスとは何か」という重要なテーマを研究している。
イノベーションの取り組みのなかでも、実行の部分は特に軽視されているといえる。人はビッグアイデアを探すことばかりに熱中する。だが、現実を見てほしい。実行能力が伴わなければ、企画書は机上の空論のままで終わってしまうのだ。
我々はフォーチュン500企業のうち、ディーアやハズブロ、トムソン・ロイター、GE、IBM、コーニングなどを含む25社以上を対象に調査を実施した。その結果、イノベーションを実現しようとする過程で、ほとんどの企業が1つか2つの致命的なミスを犯していることが判明した。たとえば、コア事業部門にイノベーションを要請したり、特命開発チーム(スカンクワーク)を生み出してしまったりすることだ。いずれのアプローチも致命的な欠陥がある。
コア事業部門にイノベーションを要請しても、うまくいくはずがない。なぜなら、コア事業は効率最優先であり、すべての作業を反復可能で予測可能なものにすることを重視するからである。イノベーションにはコア事業部にできない行動、つまりルーチンではない予測不可能な行動が求められる。一方、コア事業から遠く離れた特命開発チームにイノベーションを切り離すことも妙案とはいえない。なぜなら、イノベーションはコア事業の資産を一部活用する必要があるからだ。それができなければ、特命開発チームの設置よりシリコンバレーで起業するほうがまだメリットが大きい。
企業には「異なる両者が連携する」(distinct-but-linked)という組織モデルが必要だ。つまり、イノベーションの専任チームがコア事業部と敵対するのではなく、協力関係を結ぶ組織である。
そのような協力関係を実現させたら、企業はこの連携を軌道に乗せなければならない。我々は、この連携が軌道から外れるときに見られる5つの危険な兆候を発見した。
1. 専任チームのメンバーが「反抗」や「陰謀」などの言葉を口にすることが増える。
2. 専任チームのメンバーが会社の救済者のごとく振る舞うようになる。
3. 専任チームに割り当てられた人が勝者で、割り当てられなかった人が敗者であると感じる。あるいはその逆のパターン。
4. コア事業部のスタッフが、専任チームの特別待遇のことばかりを気にする。会社の標準と異なる業績評価基準や報奨制度など。
5. コア事業部のリーダーたちが、会社の業績目標を達成できなかったことを理由にイノベーションの取り組みは失敗であると主張するようになる。
あなたもこのような脱線の例を何度か目にしているのではないだろうか。そのとき、あなたはどのように対処したのだろうか。
“Five Warning Signs Your Innovation Efforts Are Going Off the Rails,” HBR.org, August 16, 2010.