私たちの研究事例でいえば、「マルちゃん鍋用ラーメン」(東洋水産)や「生活の木」がこのタイプの制約に挑んでいました。マルちゃん鍋用ラーメンに使われている半なま乾燥麺、あるいは生活の木のハーブやアロマテラピーは、今でこそ広く人気を集めています。しかし、これらの企業もまた、具体的にどのような生活シーンで、どのように用いれば、あるいは社会のなかでどのように流通させれば、顧客にこれらの技術や素材の価値を実感してもらえるかについて、事前に把握できていたわけではありませんでした。
マーケティング担当者や経営者が試行錯誤を通じて、生活シーンのなかでの新しい用途や、社会のなかでの産業の新しい生態系を見いだしていったことが、両社の予測されなかった成功につながっています。(図1)

市場は拓かれる
2回の連載に渡って紹介してきた以上の事例は、何を示唆しているのでしょうか。制約だらけに思える立地や技術に悩む企業のマーケティング担当者、そして地域のリーダーの立場にたって考えていきましょう。
力づけられるのは、成功の可能性を見いだしにくいとされていた場所や産業、あるいは技術や素材であっても、取り組みしだいでは市場は拓かれるということを、これらの事例が示していることです。では、これらの企業や地域は、何をなし遂げることで市場を拓いてきたのでしょうか。それは一言でいえば「視点が変わると価値が生まれる」という命題の実践です。
制約のなかで何ができるかを考え抜く
さて、こうした視点の切り替えの重要性は、これまでにもマーケティングの理論や実践において、「ポジショニング」あるいは「リポジショニング」といった概念のもとで指摘されていました。ここで私たちは、今の日本の産業や地域におけるポジショニングやリポジショニングの概念の重要性を再認識するとともに、それらの指摘には次のような限界もあったことを確認しておくべきでしょう。すなわち、これらのマーケティングの古典的概念が示しているのは、「何を行うか」の指摘であって、「どのように行うか」の提示ではなかったのです。
私たちが、以上の事例からの学びを広く企業や地域の実践に活かそうとするのであれば、さらに「どのように制約や障害と向かい合うか」「どのように視点の転換を実践に結びつけていくか」を事例から読み取っていかなければなりません。そして、ここにマーケティング理論のフロンティアが残されていると、私たちは考えています。
次の第3回では、セラピーや心理療法の分野で用いられていた「リフレーミング」という概念に注目します。その上で、この概念をカギに、マーケティングにおける視点の転換をうながし、実践を導く方法へと検討を進めていきましょう。