貧困国で生まれたイノベーションが、米国などの富裕国で医療サービスの提供を妨げているコストと質の問題を解決する役に立つ可能性がある――こう言われても、にわかに信じられないかもしれない。貧しい人が富める人の持ち物を欲しがるというのは容易に理解できるが、本来、貧しい人のために用意されたソリューションが富める人の役に立つということなどありえるのだろうか。

 インドのアラビンド・アイ・ケア・システム(Aravind Eye Care System)は、富裕国がそのようなリバース・イノベーションについて真剣に考える必要があることを示す実例といえる。

 アラビンドが運営する事業には、5つの眼科医院からなるチェーン、白内障などの眼科手術に必要な眼内レンズと消耗品を製造する施設、インド国内外の眼科医院向けトレーニング機関、地域への奉仕活動ネットワークなどがある。アラビンド眼科医院では、2008~2009年にかけて269,577件の眼科手術を実施し、そのうち約50%は貧しい患者のために無料で行われている。残り50%の手術も相場以下の低料金で行われているが、採算部門による補てんは実施されていない。

 同期間に同社の眼科医院を利用した246万人の外来患者のうち50%は無料で診察を受けており、他のほとんどの患者も診察費は0.50ドル程度である。アラビンドは寄付や慈善事業の支援も受けていないが、ちゃんと利益をあげているだけでなく、資金を投じて3年ごとに病院を新設しているのだ。これらの新しい病院や事業拡張はすべて内部資金でまかなわれている。アラビンドは20年以上にわたってこれを実践している。

 いったいどうやって、実現しているのだろうか? その答えはアラビンドを構成するさまざまな要素に隠されている。

1. 驚異的な生産性

 アラビンドの医師は1日(実質6時間)平均25件の白内障手術を実施している(他の眼科医院は医師1人当たり6~8件)。アラビンドは、非常に合理化された革新的で効率的なシステムと、高度に訓練された医療補助スタッフを採用することでこれを実現している。

2. 規模の経済を活かす

 同社の社内製造施設オーロラボは、単価5ドルで眼内レンズを製造している(世界の平均単価は約80ドル)。アラビンドは世界最安値の眼内レンズメーカーといえる。生産規模が大きいため、製品の約50%をインド国内外の他の眼科医院に販売することができる――というより、販売せざるをえない。