これまでの記事で、リバース・イノベーションについて数々の事例とともに述べてきた著者だが、今回はその定義と特徴を改めて振り返ってみよう。
2011年1月に行われたダボス会議で、私はリバース・イノベーションに関するセッションのパネリストとして参加した。聴衆には125名を超えるCEOと上級幹部が集まった。
イノベーションはまず富裕国で生み出され、商品化されると他の先進国へと水平展開され、最後に発展途上国へと降りてくる――これが従来の考え方だった。結局のところ、米国やドイツのような先進国こそが世界で最も豊かで技術的に進んでいる国ではないのか。たとえば両国には科学技術の分野で300人を超えるノーベル賞受賞者がいるが、インドと中国は合わせて10人にも満たない。したがって、次なるイノベーションの波に最初に乗るのは先進国ではないか。発展途上国がそれらのイノベーションを取り入れるのは、経済的に追いついてからでないと無理ではないのか。
さにあらず。
我々は新たな時代の入口に立っている。この時代には、ブレークスルーをもたらすイノベーションはまず発展途上国で生まれる。そして他の途上国に広がり、その後で先進国へと昇っていく。これが我々のいうリバース・イノベーションだ。簡単にいえば、最初に発展途上国で導入されるイノベーションであれば何でもリバース・イノベーションとなる。グローバリゼーションにおいてさらに強みとなるのは、こうしたイノベーションは他の新興国市場へと規模を拡大できるだけでなく、より重要なことだが、先進国市場に向けても拡大できることだ。
ダボス会議で強調した3つのことを、ここで改めて指摘しておきたい。
●リバース・イノベーションは戦略的に重要な優先事項である
得られる見返りは果てしない。今日、富裕国と貧困国は世界経済において同等の割合を占めている。しかしここ何年も、成長率については貧困国のほうが格段に堅調だ。多くの富裕国は深刻な不景気を経て、ようやく停滞から抜け出しつつあるところだ。成長率は比べものにならない。新興国市場は今後、世界の総GDP成長率の3分の2を占めるまでになると期待されている。
●リバース・イノベーションを不可欠とする最大の要因は、新興国市場の競合企業の存在である
もし先進国のグローバル企業が貧困国でイノベーションを行わないのなら、地元の競合企業がその機会を奪う。そうなれば、彼らは貧困国においてだけでなく、世界中でイノベーションの主導権を握り、やがては手ごわいライバルへと成長するだろう。すでにタタ、マヒンドラ、レノボ、ハイアールといった新世代のグローバル企業が発展途上国から台頭している。新興国の巨人たちは欧米の多国籍企業を打ちのめす力を持っている。たとえばITサービス業界では、インド企業(インフォシス、タタ・コンサルティングサービシズ、ウィプロ)が「グローバル・デリバリー・モデル」(優秀なソフトウエア技術者の人件費が安いインドから、先進国の顧客に遠隔でサービスを提供すること)を開発し先駆者となった。おかげでIBMやアクセンチュアはビジネスモデルの見直しを迫られている。ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルは地域用旅客機の分野でカナダのボンバルディアと張り合っている。メキシコのセメックスはセメント業界でイノベーションを起こし、スイスのホルシムやフランスのラファージュに迫っている。中国のファーウェイは、電気通信事業のグローバル企業であるシーメンス、エリクソン、アルカテル・ルーセント、シスコと渡り合っている。
●リバース・イノベーションを実現するうえで、組織が最大の障害となる
欧米の多国籍企業は、ほとんどのリソースと意思決定権を富裕国に置いている。リバース・イノベーションで成功するためには、彼らは重心(リソースや決定権)を新興国市場に移す必要がある。これは難しい決断かもしれないが、貧困国で機会を捉えるために必要不可欠なことである。