ゴビンダラジャンが牽引し注目を浴びている壮大なプロジェクト、「300ドル住宅」。その使命と目的、設計思想、ビジネスモデルはリバース・イノベーションで貫かれている。今回はプロジェクトの背景と全体像を紹介しよう。

 

「市場だけでは貧困層に十分な住宅を供給することはできない。持ち家か賃貸かに関係なく、住宅を手に入れられるのは国民の半分に過ぎない」――アフォーダブル・ハウジング・インスティテュート(AHI)の創設者、デイビッド・A・スミスはこう述べている。「その結果、自力または無許可で建てられた住居から成るコミュニティーが自然発生し、発展途上国の都市郊外には貧民街や拡大し続けるスラムがキノコのように出現した」

 そこで我々はこの問題について、リバース・イノベーションの観点から検討することにした。

 クリスチャンと私が検討した課題は次の5つである。

・自家製の住居がひしめくスラムを、どうすれば暮らしやすい住環境に変えられるか。
・貧困層に適した住宅とはどのようなものか。
・この問題を解決するために、世界クラスの設計・土木技術をどう活用できるか。
・このようなプロジェクトの参加者がリバース・イノベーションから学べるものは何か。
・貧困層がこの住宅を買えるようにするにはどうすればいいか。

 ●暮らしやすい住環境

 我々が最初に考えたのは、自家製の住居が段ボールやプラスティック、泥、粘土、金属廃材など、手近にある間に合わせの材料でつくられているということだった。むき出しの土の上に建てられた建築物は倒壊しやすく、引火しやすい。考えられる対策はこれだ――大量生産で、標準化され、低価格で、持続可能な住宅に建て替えること。我々は「低所得者向けの300ドル住宅」の開発を目指している。

 ●外観と雰囲気

 設計者にとって、我々が描いたこの住宅のスケッチ は冗談に思えるかもしれない。しかしこの住宅のコンセプトを理解する手始めとしては有用だろう。我々はこの住宅を、住む人の真のニーズに基づいた「製品とソリューションを兼ねるエコシステム」にしたいと考えている。持続可能で環境にやさしい材料で建てることはもちろん、豪雨や地震、子供たちの遊びによる衝撃に十分耐えられることが求められる。間取りはワンルームで、プライバシーを守るつり下げ式のパーティションを設置する。家具はハンモックや折りたたみ式の椅子を備え付ける。屋根には低価格のソーラーパネルとバッテリーを装備し、照明のほか、携帯電話やタブレット型コンピューターを充電できるようにする。低価格の浄水器も設置する。