低所得者層、インフラの不備、天然資源の不足――新興国市場のこうした要素をビジネスチャンスに変えるのがリバース・イノベーションだ。さらにゴビンダラジャンは第4の要素として、顧客と企業の中間にあるべきさまざまな機関や仕組みの欠如、つまり「組織・制度の空白」に目を向けるべきであると言う。


「新興国市場」といわれて我々がイメージするのは、急成長を遂げているが購買力が弱く、インフラが十分に整備されておらず、天然資源が不足している国々だ。これら3つの要因があるために、新興国においてはのちにグローバル展開が可能なイノベーション――つまりリバース・イノベーション――が必要とされる。しかし、4つ目の重要な要因がある。それは仲介機関の不足、つまり「組織・制度の空白 」である。

 タルン・カナが『新興国マーケット進出戦略』(邦訳2012年、日本経済新聞出版社)で述べているように、新興国の市場とバリューチェーンをより効率的にするためには、ベンチャー・キャピタル、法的支援、大学、規制機関、独立監査機関などが必要となる。こうした機関・制度は物理的なインフラや天然資源とは別のもので、しばしば無形のかたちで存在する。

 組織・制度の空白の好例は、医師に訓練を提供する大学機関の不足である。専門医の養成には10年以上を要する。新たな医科大学の設立や既存の医療教育機関の拡張では、現地の医療ニーズに今すぐ応えることにならない。

 医療機器メーカーのメドトロニックは、慢性疾患管理の分野で、この空白を解決するためにいくつもの方法に取り組んでいる。

 発展途上国における死因の69%は慢性疾患だが、国際援助のうちこの分野に割り当てられるのはたった2.3%である。アメリカでは、慢性疾患患者の入院治療費が医療費全体の大半を占める。しかし慢性疾患管理に関するイノベーションは、インドのような新興国市場でより速く進んでいる。これは医師不足が理由である。