あなたの組織は、イノベーションにどれほど適した環境にあるだろうか。ゴビンダラジャンらが示すチェックリストで自社を採点し、経営方針やビジョン、組織モデル、市場との向き合い方などを検証してみてはいかがだろう。
組織が生産的にイノベーションを行うためには、いくつかの条件が整っている必要がある。次の各項目について、自社を1(非常に悪い)~10(非常に良い)の10段階で評価してみてほしい。
1. イノベーションの必要性について、説得力のある説明を示す
従業員がイノベーションの必要性を理解していなければ、経営資源をめぐる争いではコア事業に必ず負けてしまう。コア事業は規模が大きく、権力を持っており、短期的な財務実績に基づく資源配分を正当化できる。したがってイノベーションの必要性について、説得力のある説明が求められる。
2. 従業員を奮い立たせる、将来のビジョンが共有されている
ほとんどの企業は、過去に基づいて未来を予測する。当然ながら、その未来では自社は常に安泰のように思われる。しかし、過去を断ち切って未来をあらゆる角度から想定すれば、変化の潮流を認識しやすくなり、自社は(意外にも)それほど安泰ではないとわかるだろう。このプロセスでは、10~20年先の展望を描くのが最善である。未来を予測するのではなく、未来について仮説を立てるのだ。
3. 十分に整合性のある、イノベーションの戦略的課題を示す
チェシャ猫はアリスに、「どこへ行きたいかわからないのなら、どっちの道に行っても同じさ」と言った。イノベーションは未知への旅路であり、イノベーターの眼前にはたくさんの道が開かれている。出発前に、必ず次の2点を決めておく必要がある。(1)自分たちが今どの事業領域にいて、これからどの事業領域で勝負していきたいのか。(2)ビジネスのルールを変えるような大胆なアイデアを進めるにあたり、リスクをどの程度許容するのか。筆者らの経験によれば、抜本的イノベーションが失敗に終わる最大の理由は、イノベーションのプロセスと経営方針(企業の戦略的意図)を一致させるために、事前に十分な時間が費やされていないことである。
4. 経営幹部が明白に関与している
漸進的イノベーションであれば、下部組織――戦略と意思決定の指標が明確で、ステージゲート法などによって公平性が保たれている組織――に担わせることができる。しかし、抜本的イノベーションの場合は逆である。戦略は曖昧にならざるを得ず、従来の指標はプロセスの初期段階では通用しない。なぜなら真に新しいものには、参考にしたりベンチマーキングを行ったりする対象がないからだ。このため、ステージゲート・モデルを用いると、大きな可能性を持つアイデアが図らずも潰されてしまう恐れがある。抜本的イノベーションの追求がうまくいくのは、多額の支出を承認できる者が、目に見えるかたちで取り組みに関与して支援し、チームを上空援護してくれる場合のみである。
5. 熱意あふれる推進者が意思決定を行い、チームワークを向上させている
ブレークスルーをもたらすイノベーションは、通常とは異なる意思決定モデルがなければ実現できない。重要なのは指標ではなく、「知識に基づいた直感」である。従来のやり方では機能しない。トップダウン型の意思決定では、重要なステークホルダー全員からの積極的な関与を引き出すことはできない。一方、コンセンサス方式ではすべての意思決定が凡庸なものに成り下がってしまう。必要なのは、みずからの意思決定に対してチームの支持と積極的関与を引き出すことができる、熱意あふれる推進者である。