だが、これは戦略策定をあまりに難しくする。基準を高くしているために、戦略オプションの創造が妨げられたり、遅れたりしている。こうしたプロセスは、現在の戦略よりも確実に魅力的なオプションを生むことができない一因となるだけでなく、立案に際して膨大な作業や分析を必要とする。そして作業に従事する人たちは、その苦しみのために神経質になり、互いのオプションを面白いアイデアとして扱わずに、あら探しをするようになる。

そこで私が提案するのは、戦略オプションを「将来についての幸せな物語」として考えよう、ということだ。正しくなくてもよいし、理にかなっていなくてもよい。ただ、それにより組織が将来幸せな状況にあればよい。実際、もしその戦略オプションが完全に正しくて理にかなっているならば、おそらくすでに実施されているだろう。

 戦略は、分析に基づいて構成されている必要はない。この領域で、このようにして勝つだろうという、包括的な物語とすればよい。唯一必要なのは、大いなる志を反映した幸せな物語であるということだ。幸せでないのなら、そもそも戦略オプションとする価値はない。

 参加者全員が互いに幸せな物語を語り合えば、素晴らしいオプションのリストがすぐにできるはずだ。なぜなら、誰も度を超えた尽力や慎重さ、高度な論理性を求められていないからだ。そうした基準の重要度は低くなる一方で、創造力は大いに要求される――物語、それも幸せな物語にするために。

幸せな物語=オプションを集めたら、その次に戦略において最も大切な問いを自問する。「何が実現されなければならないか」である。個々の物語に関して、それが素晴らしい選択肢となるためには何が実現されなければならないかを考える。魅力ある選択肢から逆算し、それが実行可能で魅力的なオプションとなるには、何が実現されるべきかを検討するのである。

 これが偉大な戦略を生み出す、ものすごく簡単な方法である。


HBR.ORG原文:Moving from Strategic Planning to Storytelling June 1, 2010

ロジャー L. マーティン(Roger Martin)

トロント大学 ロットマン・スクール・オブ・マネジメント
学長
著書に『インテグレ―ティブ・シンキング』などがある。