大規模なイノベーションに取り組むという決断を、ゴビンダラジャンは「ホッケーのパックがどこに飛ぶかを読む、大きな賭け」になぞらえる。そしてこの賭けを可能にするのは、経営トップの「知識に基づいた直感」であるという。


「優れたホッケー選手は、パックがいまある所でプレーする。偉大なホッケー選手は、パックがこれから向かう所に滑っていく」――読者の皆さんは、偉大なアイスホッケー選手だったウェイン・グレツキーのこの名言を100回は耳にしたことがあるだろう。しかしこの言葉を、真にイノベーティブな組織がすべきことの例えとして捉えたことはあるだろうか。

 CEOの皆さんは、肝に銘じてほしい――業界のホッケーパックが行く先について大きな賭けができるのは、あなた方だけだ。その際、「知識に基づいた直感」を頼りにしなければならない。そうする必要性を認識していながら、行動に移さないCEOがあまりに多い。

 1990年代の終わりに、筆者らが大手グローバル銀行のある部門でグレツキーの例えを紹介した時のこと。突然、その部門の責任者が興奮して立ち上がり、会場の前方に出てきて、次のように言った。

「それは我々のことです! 3年前に我々は、2つの重要な顧客セグメントが――中小企業と、富裕層の顧客ですが――今後2、3年以内にPCバンキングを必要とするだろうと判断しました。しかし、自分たちの「知識に基づいた直感」を信じて賭けにでる代わりに、我々は従来型のマーケットリサーチによって、この顧客層にオンライン・バンキングを現在利用したいかと尋ねたのです。彼らは、関心がないと答えました・・・・・・我々が知っていたことを、彼らは知らなかったからです。結局そのアイデアは見送りとなりました。そして今、我々はその同じ顧客を競合に奪われつつある。なぜなら競合がPCバンキングを提供しているからで、我々は必死に追いつく必要があります。私が下した決定が、この結果を招いたのです」