長らくインフラが未整備だった発展途上国こそ、旧来のインフラという足枷に縛られずにイノベーションを加速させることができる。その好例が、インドのモバイルバンキングであるという。
2012年2月16日、英バークレイズ銀行はスマートフォンで送受金が行える新サービス〈Pingit〉を開始した。だが、これはモバイルバンキングで最初の画期的イノベーションというわけではない。このようなイノベーションはすでに、発展途上国で起こっている。
貧しい国々は、先進国に先駆けて21世紀にふさわしいインフラを構築している(元々、古いインフラがほとんどなかったからだ)。インドの場合、有線電話すら満足になかったが、いまや最先端の無線通信システムが整備されている。この革命は、実店舗の銀行サービスを飛び越え、大衆向けモバイルバンキングが発展する要因にもなっている。他の貧しい国々にも同様のパターンが見られる。アフリカのモバイル送金サービス〈M-Pesa〉はその好例だ。意外なことに、モバイルバンキングに関しては、発展途上国のほうが先進国より進んでいるといえるかもしれない。
そのようなイノベーションの一例として、インド決済公社(NPCI)の銀行間モバイル支払いサービス
インドには、地理的制約と利用料が障害となり、銀行を利用していない国民が大勢いる。だが、8億4000万人を超える携帯電話利用者を擁するインドでは、モバイルバンキングは迅速かつ料金が手頃で、利用しやすく、便利で安全な銀行取引の手段である。銀行のモバイルバンキング用アプリケーションは顧客にさまざまなサービスを提供してくれるが、顧客が年中24時間リアルタイムで送金できるようにするために、大手銀行間の接続を求めるニーズが生じた。NPCIの銀行間モバイル支払いサービス
NPCIにとって最大の武器は、60を超える大手銀行がATMネットワークでつながっているということだ。同社はこのインフラを利用して、費用効果の高い年中無休・24時間の決済サービスを提供している。NPCIはモバイルをチャネルとして利用した。銀行と連携し、非常に短期間でモバイルバンキングを共同開発。ATMネットワークを利用したメッセージ交換の基準を定義し、取引のルーティングと決済機能を実現した。取引はリアルタイムで実行される。
銀行間の接続が確保されているので、同じメカニズムを使用してさまざまな付加価値サービスを提供することもできる。NPCIは、銀行以外にも、プリペイド型ソリューションを提供するさまざまな企業を承認制でこのプラットフォームに接続し、さらにアクセスを拡大させようとしている。NPCI自身もインドの大手10行との提携により業績を伸ばしている。これらの銀行は市場で激しい競争を展開する一方で、国家的な目標を達成するために協力もしているのだ。