2.社内の環境は、カタリストとなりうる人を支援するために整っているか。
せっかく獲得して能力を開発した人材を、新興の競合企業に奪われる――こんなことがないように、万全を期す必要がある。ひとつのカギは、イノベーションの風土の醸成である。イノベーションを成功に導いている慣行に従って行動でき、社内の制度と闘う必要がない状態にすることだ。インパクトを生み出すカタリストに共通する行動様式に、どれだけ支援の手を差し伸べているか――企業はこの点に、特に留意しなければならない。一般的に、カタリストは次のような行動をとる。
●イノベーションに包括的に取り組む。機能や性能だけを考えるのではなく、市場での注目度を高めること、流通、資金調達、組織編成などについても新しい方法を考える。
●自分の管理下にはない経営資源でも、活用できる。IBMのコリン・ハリソン(「スマート・シティ」の取り組みを推進した人物)はこう述べている。「私は数百人にのぼる人々と一緒に仕事をしますが、彼らは私の直属ではありません。これほど大きな規模の会社だと、社内であらゆる能力の持ち主たちを見つけ、活用することができます」
●取り組みのインパクトを高めるために、社外の人々を巻き込みパートナーにする
こうした行動を支援する文化を持てない企業は、カタリストの潜在能力を潰してしまうだろう。
3.新しい製品・サービスの開発と同じくらい熱心に、人材の発掘と能力開発についても画期的なアプローチを考えているか。
大企業は、将来の推進者を発掘し育てるための新しい方法を実践するべきである。前述のパネル討論で、スタンダード・チャータード銀行のキャリー・レストンは、若い有能人材を獲得するために同行が実践している数々の画期的な方法を紹介してくれた。たとえば、モバイルバンキング向けのアプリケーション〈ブリーズ〉を開発した時には、(ソーシャルメディア戦略の一環として)ツイッターやブログでブリーズの情報を発信するインターンを募り、「世界最高のインターン」コンテストを開催した。
グローバル企業は、このような目的を絞った実験を行えるという強みを活用するべきである。そして大きなインパクトを生むアプローチを、再現可能にして広く根付かせる仕組みを持つ必要がある。
イノベーションは今もこれからも、人的活動によるところが大きい。カタリストは、抑圧されていたイノベーションのエネルギーを解き放ち、増大させる。莫大な経営資源を持つグローバル企業は、そうした人材を獲得し、つなぎ留め、能力を開発する独自のノウハウを磨けば、この先何年もイノベーションの大きな見返りを得るであろう。
HBR.ORG原文:How Big Companies Can Save Innovation September 3, 2012

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。