ではなぜ、上司は大衆文化において嫌われる存在として描かれるのだろうか。それにはたくさんの理由がある。この数年、世間の軽蔑を受けて当然の行為に手を染める企業幹部がいた。また、上司や同僚の悪口が格好の気晴らしになるという人もいる。しかし我々の研究によれば、多くのマネジャーは、マネジメントに対してあまり前向きではないようなのだ。みずからの役割に付随する地位や特権、権力は歓迎する一方で、マネジメントが「本来の仕事」への差し障りになるとも考えている。あるいは、マネジメントをごく限定的に捉え、組織構造、短期的な戦略、そして翌四半期の利益にのみ集中している。いずれにしても多くのリーダーは、マネジメントがより高次の対象――一般社会と、それを構成する人々――に奉仕するものとは考えていない。
つまるところ、経営とは人にまつわる営みなのだ――社員、顧客、投資家、そして地域社会である。顧客は生活を実際に改善する製品やサービスの恩恵を受けるべきであり、投資家は長期にわたり安定的なリターンを得るのが道理である。企業は地域社会との関わりを通して、雇用の創出や納税だけでなく、地域の繁栄に必要な物的・社会的インフラにも貢献する義務がある。そして従業員は、給与だけを――金額がどうであれ――得ればいいのではない。仕事とはほとんどの人にとって、家族、健康、宗教と並ぶ人生で最も重要な要素である。職場で起こる出来事は、生活の質を大きく左右する。我々の研究によれば、みずからの仕事に何らかの価値を見出している人々は、その仕事で成果を上げる機会を切望している。そのような機会を与えることこそ、マネジメントの役割なのだ。
マネジャーは、人々に成功の機会を提供しその実現を支援する「カタリスト」(触媒)となれば、組織のみならず社会のヒーローとなれるだろう。ピーター・ドラッカーは、次のように雄弁に語っている。
「私が言い続けてきたことを、米国のみならず世界中のマネジャーが忘れないよう望む。すなわち、マネジメントとは地位や権限の行使、あるいは商取引の行為をはるかに超えたものである。マネジメントは、人々とその生活に影響を及ぼすのだ」
マネジャーが四半期の利益のみに縛られず、人々の人生や生活の向上に目を向けるようになれば、大衆メディアでヒーローとして描かれることも増えるだろう。
HBR.ORG原文:Horrible Bosses July 18, 2011

テレサ・アマビール(Teresa Amabile)
ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。
スティーブン・クレイマー(Steven Kramer)
心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。