一方で、ハンドリングは話題性を生み出す仕組みについても十分に理解していた。権威ある審査員、できれば審査委員長はクエンティン・タランティーノ。目玉となる賞。スターとレッドカーペット。熱狂的な報道陣とパパラッチ。それだけでなく、ハンドリングは話題性の経済的価値についても時間をかけて考え、深く理解した。話題が巷間に広がれば、相乗効果が生まれる。つまり、映画を売りたいプロデューサーは、売り込みの助けとなるスターや監督を連れてくる。映画を買いたい配給会社は小切手帳を持ってやって来る。全員がここに集まるのだ。話題性がなければプロデューサーも配給会社も来ることはなく、映画祭の経済的価値も弱まってしまう。話題性があれば、ふさわしい人々が集まって映画祭は経済的にも活気づく。

 相反するモデルの論理構造を頭のなかで十分に理解していたので、ハンドリングは次のように自問することができた――「包括性によって話題性を生み出す方法はないだろうか? とくに、トロント映画祭の経済的合理性を強化するような話題が欲しい」

 ここで非常に重要なのは、話題性を生み出すうえで包括性が障害になりそうだという理由で、彼が包括性を排除しなかったことだ。包括性が話題性を妨げずに高める方法を模索した。

 答えは芸術的な論理ではなく、経済的な論理にあった。映画監督は、作品の商業的な魅力や妥当性にかかわらず、芸術的な成功を望んでいるかもしれない。しかし、配給会社はチケットが売れる映画を求めている。だから映画祭にやって来るのだ。そして、配給会社がまったく来なければ、プロデューサーや監督は自分の作品を映画祭に出そうとは思わないだろう。配給会社を引き付けるような話題こそが重要なのだ。

 その答えがピープルズ・チョイス賞だった。この賞により、勝者は誰になるのかという話題が生まれる。同時に、この賞は配給会社にとって、映画の商業的成功を判断する有用なバロメーターにもなった。なぜなら、トロント国際映画祭の観客の反応は(カンヌの審査員と違って)より大きな映画市場の動向を予言するものとなるからだ。

 これが、ダブルダウンである。包括性を大事にしながらも、最大の経済効果をもたらすような話題性を生む賞――それがピープルズ・チョイス賞なのだ。

 これが統合思考の1つの形である。今後の記事では、「分解」と「隠れた宝石」について説明しよう。


HBR.ORG原文:The Integrative Strategic Move of "Doubling Down” January 17, 2011
 

ロジャー L. マーティン(Roger Martin)
トロント大学 ロットマン・スクール・オブ・マネジメント
学長。
著書に『インテグレ―ティブ・シンキング』などがある。