そのメンバーは、普段から論客ぶりを発揮するNicholas(お洒落なイタリアン)、Seth(敬虔な英国人)、Jorge(数学得意なスペイン人)という癖の強いエンジニア3人組だったこともあり、深刻な強度不足を予感させるスクエアな形状と、隙間が多く容易に漏水しそうな製造工程は皆の失笑を買った。
しかしレースが始まると、手本に従順に従った他の舟は人が乗り込む前に浸水するなど散々だったのに対し、箱舟は信じがたいほどの強度で長距離の航行に耐え、ぶっち切りでナンバー1になるという衝撃の結果が待っていた。

浮かぶ箱舟
この事件は、Quipperは常識に囚われない発想をするべきだ、ということ以外に解釈のしようがない。メッセージがクリアすぎて全員グルかと疑うほどの寓話的な出来事である(「沈まない箱舟」ってのが暗示的で笑える)。
僕も経験から来る慎重さやしたたかさを発揮しつつ、Takuyaを始めとする若者チームをもっと信頼してのびのびと活躍してもらおうと再認識した。製造過程の箱舟を指差し、地面を転げまわって1番爆笑していたのは他ならぬ僕だ。本来うまくいくはずの新しいサービスを曇った目で判断し、可能性を摘んでしまっては元も子もない。
念願の日本オフィスも2013年1月に設立した。DeNAの後輩の横井(明文)さんが具体的な話すらないときから志願し、事業開発に走り回ってくれた。横井さんとはDeNAの頃から教育をやりたいと話し合ってきた。プロダクトに強く、よい意味での適当さがあり、熱い。英語がもう少しできるようになればバッチリだ。
この日本オフィスでも、設立間もないうちから次々と名うてのエンジニアが身を投じてくれ、強くしなやかな開発体制が整ってきた。狭い室内に机を並べて、ガシガシ開発し、機能が続々と実装されていく姿は見るからに頼もしい。革命前夜のアジトのような雰囲気とでも言おうか(見たことないけど)。
日本オフィスはロンドンと連携を取りつつも高い独立性を持って、大きな日本市場にしっかり根を張った事業を展開しつつ、アジア市場に向けて果敢に攻める拠点として成長させていきたい。
それにしても、ロンドンも東京も優秀な人材が次々とQuipperの門を叩いてくれるのは嬉しい限りだ。僕の人徳の成す業である、と言いたいのは山々だが、そういうわけではない。モバイル学習プラットフォームという夢が人を惹き付け、自然と良いチームが形成されてきているのだと思う。
今後もQuipperが目指す姿と、その難しさや面白さを広く伝え、共鳴する人が集まってくるような場にしたい。そして、我こそはと思う方はぜひチームに参加してほしい。
次回は、Quipperの学習プラットフォームという難しくも美しいサービスの概要を説明したい。
【連載バックナンバー】
第1回「DeNA起業に参加したのは南場さんと川田さんと珍道中を楽しみたかったから」
第2回「DeNAで山ほど失敗して学んだ新規事業企画のコツはないというコツ」
第3回「DeNAを辞めて起業するとは思っていなかったのに、なぜ学習サービスQuipperをはじめたか」