マーケターの誤解

 例によって、世のマーケターは過剰に騒ぎ立てている。今回は、「従来のマーケティングが終わりを迎える」というのだ。ソーシャル・メディアの台頭と、消費者へのパワー・シフトのせいで──。

 だが、これまでのマーケティング活動やブランドそのものが無意味になる社会になる、と考えるのは誤りである。むしろ反対である。ソーシャル・メディアによって、企業はこれまで以上に基本を正しく理解し、魅力的な「ブランドの約束」を打ち立て、それをしっかり果たすことが求められている。

 顧客を(少なくとも長きにわたって)失望させることは、これまでも企業にとってリスキーであった。だがいまや、ソーシャル・メディアの規模とスピードゆえに、企業に至らない点があると、たちまち大きな痛手を被ることになる。

 高価な割に簡単に開けられてしまうクリプトナイトの防犯ロックや、バッテリーから発火することがあるデルのラップトップPCに対する反感が、インターネットをきっかけに高まったのを考えてみればよい。

 同じ理由で、常に約束どおりの成果を出す企業は、ソーシャル・メディアがその評判を増幅するため、大いに有利となる。

 このように、ソーシャル・メディアの発展についていけないリスクは明らかである。だが、そこまで明白ではないものの、同じように危険なことは、ソーシャル・メディアに気を取られて基本を見失うことである。

 我々は長い間、さまざまな業界の企業と協力してマーケティング戦略について研究してきた。この15年間は、ニュー・メディア、特に最近はソーシャル・メディアによるマーケティングに焦点を当てている。また、いくつかのニュー・メディア関連の新興企業が成功を収める過程にも直接関わってきた。そこには、顧客向けのアドバイザリー・パネルやオンライン・ブランド・コミュニティを専門とする企業も含まれる。

 そして、我々は次のような結論を出した。この新しい環境で成功を収める企業は、自社ブランドの約束にたえず目を光らせながら、ソーシャル・メディアがもたらす多くのチャンスを利用している。また、マーケティング戦略を書き換えるのではなく、それをうまく修正している。

ソーシャル・メディアを活用する

 ほとんどの企業は、ソーシャル・メディアを「関与」と「協力」のツールだと考えてきた。アメリカン・エキスプレスの〈オープン・フォーラム〉、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の〈ビーイングガール・ドットコム〉、シスコシステムズの〈マイプランネット〉、フォード・モーターの〈フィエスタ・ムーブメント〉など、有力企業のマーケティング担当者は、顧客との交流、あるいは顧客同士の交流の場をサイト上に設け、参加者の専門性や創造性を製品開発に生かしてきたのだ。

 もちろん、ソーシャル・メディアはブランドの認知度を高めたり、製品を試してみる機会を増やして売上げを増大させたりもできる。クチコミ情報がいっきに広がる場合が特にそうだ。しかし、ほとんどの企業にとってより重要なのは、ソーシャル・メディアを通じて、かつてないほど短時間で直接的に顧客を理解できることである。

 これは実に大きな変化を意味する。従来の市場調査は、顧客中心というよりも製品中心だった。つまり、マーケターは、自社ブランドに関する理解や行動について質問していたのだ。だが最近では、あるブランドとそのさまざまな製品群がどれくらい生活にしっくりとなじんでいるかを知るため、エスノグラフィック調査(人類学者の質的調査に倣って調査対象の日常を直接観察する手法)を用いることが増えている。ソーシャル・ネットワークは、この傾向をさらに推し進める。消費者の生活や意見を探る、新しい有力な手段となるからだ。

 P&Gは、早くからソーシャル・メディアを取り入れてきた。現在ではすべての事業分野において、特定の市場やコミュニティを対象としたサイトを持っている。

 女性用ケア製品のグループは、顧客に対して一方的に語るのではなく、顧客の話を聞く必要があると考え、思春期の少女たちを対象にした〈ビーイングガール・ドットコム〉では、製品に関する話をするよりも、11~14歳の少女の悩み、たとえば恥ずかしかった経験、衛生上の懸念、男子とのトラブルなどに耳を傾けようとした。P&Gにとってこのサイトの主な価値は、製品の売上増ではなく、ターゲット消費者の世界を理解することにある。

 同様に、アメックスは〈オープン・フォーラム〉を中小企業のオーナーを知るための一助としている。シスコは〈マイプランネット〉を使って新世代の開発者について理解を深めようとしている。

 こうしたサイトが機能するのは、参加者たちがブランドに深く関わり、そのプラットフォームを信頼し、互いを信用しているからだ。前述の企業は、サイトの管理を一部委ねることで(我々の経験では、これがマーケターにとってはいちばん難しい)、コミュニティを活性化させている。

 しかし、P&Gは最近、手厳しいメッセージが瞬く間に広がるという、ソーシャル・メディアの負の側面からの攻撃をもろに食らった。2009年に同社は、〈パンパース〉ブランドの製品に「ドライ・マックス」技術を導入し、紙おむつの吸収性の向上とかさばり感の減少を約束した。ところが、子どもがおむつかぶれになったと憤慨したロザーナ・シャーという顧客が、この製品を市場から回収しろという圧力をかけるためのページを〈フェイスブック〉に立ち上げたのだ。

 その後、かぶれや発疹の報告が続き、5月には7000人の親たちが彼女のキャンペーンに加わっていた。しかし、製品の品質に自信を持っていたP&Gは一歩も譲らなかった。長年の経験から、何%かの赤ちゃんにはどうしてもかぶれができることがわかっており、その頻度はドライ・マックス導入後も変化していなかったのだ。

 P&Gは、すでに定着していた〈パンパース・ビレッジ〉というソーシャル・メディア・ネットワークや、〈フェイスブック〉上の〈パンパース〉のページも活用して、かぶれたことには同情しながらも、明確に自説を展開した。すべての苦情に対応し、親たちにアドバイスし、なぜ製品を回収しないのかを説明した。9月にはアメリカ消費者製品安全委員会が、ドライ・マックスとおむつかぶれに因果関係は認められないとの報告を出している。

 この出来事をきっかけとして、P&Gはソーシャル・メディアに熱心でなくなるどころか、その利用法に磨きをかけることになった。将来的には、こうしたチャネルを通じて、商品発売前に顧客が関与する機会を増やし、起こりそうなことを明らかにすると共に、予期せぬ反発があった際には、より迅速かつ効果的な対応ができるようにする予定である。

 トヨタ自動車も、急発進をめぐるリコール騒ぎのなか、危機管理の一環としてソーシャル・メディアを活用した企業である。〈フェイスブック〉などにおける噂話を監視し、これに事実で答えるチームを設置したほか、アメリカ・トヨタ自動車販売の社長兼COOのジム・レンツを〈ツイッター〉に登場させた。

 また、チームはネット上のトヨタ・ファンを探し出し、彼らの声をトヨタのチャネルを通じて流させてほしいと依頼した。そして、トヨタ・ブランドの評判──品質、信頼性、耐久性という約束を何十年にもわたって果たしてきたことによる信用の蓄積──を利用し、ソーシャル・メディアなどの新しいメディアを効果的に使って、トヨタへの敵意を帳消しにした。

 リコールが進行中の2010年3月には、〈カムリ〉と〈カローラ〉の売上げが全乗用車中トップとなり、トヨタの売上げは回復を見せている。

戦略を強化する

 新しいツールを使うかどうか、使うとすればどのように使うかは、企業の状況に応じて意思決定されるべきだが、ソーシャル・メディアは、すべての企業がマーケティング戦略に取り入れるべきものである。

 では、どのような方法で取り入れるのがベストなのだろうか。多種多様な企業の戦略と業績を分析した結果、優れたブランドには基本的な共通点が4つあることがわかった。

・明確かつ適切に「顧客への約束」を伝える。
・その約束を守ることで「信頼」を築く。
・約束の内容について「継続的改善」をすることで、市場を動かす。
・「新たなイノベーション」によって、さらなる優位性を目指す。

 いずれもそれほど難しい理論とは思えないのだが、驚いたことに、多くの企業がいまだにこれらを正しく理解できてない。ソーシャル・メディアは、先の4点を速やかに強化するために利用できる。

 では、ヴァージン・アトランティック航空(VAA)がソーシャル・メディアを使って、いかにブランディングの基本を強化したかを見てみよう。

 顧客への約束

 顧客がVAAに期待しているのは、イノベーション、楽しさ、気軽さ、誠実さ、価値、もてなしである。これらの約束は、マーケティング資料やコール・センター、そして旅行代理店まで、あらゆる顧客接点で強化できるが、最近は旅行ウェブサイトの比重が高まっている。

 VAAは、サイト(〈キャンピング・ドットコム〉や〈マムズネット・ドットコム〉など、旅行の色彩が薄いサイトも含めて)で、人々がどんな発言をしているかを調べている。誤った情報があっても、VAAが修正する必要はめったにない。サイトの訪問者が代わりに修正してくれるからだ。

 他の企業と同じように、VAAはソーシャル・メディアを使って、ブランドの約束が適切か、人々に理解されているかどうかをチェックしている。また、自社のソーシャル・メディア活動のすべてが、ブランド価値に忠実で、それを後押しするよう配慮もしている。

 たとえば、同社の〈フェイスブック〉のページで最も読まれているものの一つは「乗務員が教える旅のヒント」である。これによって、誠実かつ格式張らず、もてなしの心にあふれているという印象を与えることができる。

 信頼

 言うまでもなく、信頼が問われるのは主に業務遂行、すなわちサービスの提供に関してである。だが、トラブルが生じた際、顧客に新しい情報をたえず伝えることによって、一つの不手際をきっかけに信頼そのものが損なわれてしまうという広報上の悪夢を防ぐことができる。

 顧客は、航空会社のウェブサイトは正確で常時更新されていると思っている。しかし2010年春、アイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火の影響で航空路線が混乱した時、VAAのウェブサイトは状況の急変についていけず、顧客とコミュニケーションするために〈フェイスブック〉や〈ツイッター〉が使われた。

 このことは一部には好意的に受け取られたが、電話やサイトでの抗議からVAAが学んだのは、危機の際にはより優れた情報提供の方法が必要になるということである。

 VAAは現在、〈ツイッター〉や〈フェイスブック〉上で行うリアルタイムの情報更新に高速でリンクするよう、同社のウェブサイトを改良中である。各種のソーシャル・メディアは補完的な役割を果たすことができるとVAAは考えている。eビジネスの責任者ファーガス・ボイドはこう語る。

「〈ツイッター〉は単なる『抜粋』としてしか使えません。〈フェイスブック〉は『記事』になりえます。そしてウェブサイトは『掘り下げた解説記事』を提供できます。これらが相互に補い合う必要があります」

 継続的改善

 VAAにとって、そして大部分の企業にとって、ソーシャル・メディアがもたらす最大のチャンスは、顧客に関する知見を集めることで継続的改善を後押しできることにある。

 たとえば、1984年の創業以来、VAAは顧客のトータルな体験──航空便を探すことに始まり、無事帰宅するまで──に基づいてブランドを築いてきた。そして、個人の旅行ブログの急増がこの取り組みを補強することになった。

 マイレージ・プログラム会員が毎回セキュリティ情報を要求されて面倒だとネット上で苦情を述べているのを知り、VAAは登録制のセキュリティ・サービスを開発して、この問題を解消した。また、オンライン・コミュニティでの提言に応えて、同じ便で到着した客同士がタクシーに相乗りできるシステムを導入した。

 いずれも戦略を変更したわけではない。ブランドの約束そのものを変えることなく、VAAはソーシャル・メディアを介した対話を通じて、そのサービスを改善し続けることができたのである。

 新たなイノベーション

 機内エンタテインメント・システムや、「プレミアム・エコノミー」クラスなど、VAAはそのイノベーションに対してたびたび賞を授与されている。ソーシャル・メディアから得られる新たな情報によって、VAAブランドのこうした方向性が強化されているといえる。たとえば、〈フェイスブック〉でのやり取りのおかげで、重要であるにもかかわらず未開拓だった分野が明らかになった。長期旅行を計画中の個人客である。

 彼らはかなり早い時期に計画を練り始め、他の旅行者とも活発に議論する。そこでVAAは、「感動的な旅」に特化した〈Vトラベルド〉というサイトをスタートさせた。ここでは、顧客同士が会話の進行役を務め、情報や体験談、アドバイスを交換する。参加者は夢の旅のアイデアが詰まった自分専用のスクラップ・ブック、「トリップ・ポッド」をつくることができる。そしてVAAは、一人の旅行者の口調で議論に参加し、製品を押しつけるのではなく、アドバイスを提供する。

 このサイトが売上げにつながることもあるが、VAAにとっての主要なメリットは、ブランドの強化と、顧客に関する新しい情報である。

 オープン・イノベーションの取り組みの一環として、VAAは2008年にイギリス国立科学・技術・芸術基金と共同でVJAMというプログラムを始めた。

 丸一日をかけて開催されたワークショップでは、VAAの顧客、IT開発者、ソーシャル・メディアの専門家など多彩な顔ぶれの人たちに、「ソーシャル・ネットワーキングと旅行が出会った──魔法が生まれた」というテーマが示された。

 数多くのアイデアがこのワークショップで生まれたほか、非公式に出されたアイデアもたくさんあった。そのうち9つが最終選考に残り、6つがコンセプトを実証するための資金提供を受け、うち3つが実用化された。

 すなわち、マイレージ・プログラム「フライングクラブ」の〈フェイスブック〉フライト・ステータス・アプリケーション(航空業界初)、〈Taxi2〉(前述のタクシー相乗りサービス)、VAA初の〈iPhone〉アプリケーション〈フライト・トラッカー〉(航空機の位置がリアルタイムでわかる機能付き。これも航空業界初)である。

常に注意を怠らない

 VAAといえども、ソーシャル・メディアを活用したブランド構築を知り尽くしていると胸を張ることはできないだろう。そんなことが言える企業はいまだに1社もない。しかし、先行企業のさまざまな成功と失敗の事例を元に、我々からいくつかアドバイスをすることはできる。

 戦略を投げ出さない

 ブランドの約束を出発点にし、ソーシャル・メディアにおけるすべての行動をブランドの約束に基づいて決めよう。できることの多さに惑わされてはならない。

 ソーシャル・メディアは、知見を得るために使う

 ソーシャル・メディアを通じて製品を売ることはもちろんできるし、実際に販売している企業もある。だが、現段階でのソーシャル・メディアの価値は、顧客を知ることにある。

 なかでも〈フェイスブック〉は普及率が高いので、消費者同士の会話のやりとりを定量的に詳しく分析できる。今後、自然言語処理技術がさらに発達すれば、消費者同士の議論からより多くの知見が得られるようになるだろう。一方、その正反対のやり方として、企業主催のオンライン・ブランド・コミュニティでは、小規模でダイレクトなやり取りを通して、すぐに役立つ知見を引き出すことができる。

 クチコミを目指しながらも、ブランドは守る

 ソーシャル・メディアを使って売上げを大きく伸ばしたブランドは少ない。では、なぜそれができたのか。みずからが信頼に足る本物であることを伝えてきたからだ。

 また、「おもしろい」と口コミが広がることも大切だ。ブレンドテックの「混ざるかな?」という〈ユーチューブ〉の映像がその一例だ。創業者のトム・ディクソンが、同社のミキサーを使ってゴルフ・ボールから〈iPad〉まであらゆるものを粉砕することで、製品の強力さを実証するのである(囲み「何でもござれ」を参照)。4年前にキャンペーンを始めてから、この映像は1億回以上視聴され、売上げは700%も伸びている。

何でもござれ

 自社製品とクチコミ・マーケティングの強さを実証すべく、熊手の柄をミキサーにかけるブレンドテックの創業者、トム・ディクソン。

 特に〈シリー・パティ〉(粘土状のおもちゃ)とブブゼラを粉砕する動画はどちらも、同社の〈ユーチューブ〉チャンネルで1億回以上視聴されている。

 他方、ソニーは代理店に依頼して個人がつくったように見えるブログと〈ユーチューブ〉映像をつくり、2006年のクリスマス商戦向けに最新の〈PSP〉(プレイステーション・ポータブル)を宣伝したが、これは大失敗だった。ソニーによる「やらせ」らしいという噂が流れると批判が殺到し、ソニーはそのことを認め、映像を削除し、ブログ上で謝罪せざるをえなかった。この大失敗が売上げに貢献するはずもなく、2006年のクリスマス・シーズンの出荷台数は前年を75%も下回った。

 関与しながらも、社会的ルールを守る

 ブランドをめぐるソーシャル・メディアでの議論はたいていの場合、きちんと組織化されておらず、参加者自身が暗黙のルールに基づいて交通整理している。人々はそこでの会話を楽しむために、また何かを学ぶために、気楽に参加する。

 企業も参加できるし、ある程度なら会話に影響を及ぼすこともできる。ただし、他の参加者に受け入れてもらうことが前提だ。企業でソーシャル・メディア戦略を実行する担当者は、当然のことながらソーシャル・メディアごとの文化やルールに精通していなければならない。

 だが同時に、自社製品についても深い知識を持ち、そして何よりも重要なことだが、自社ブランドと価値にほれ込んでいなければならない。


編集部/訳
(HBR 2010年12月号より、DHBR 2011年4月号より)
The One Thing You Must Get Right When Building a Brand
(C)2010 Harvard Business School Publishing Corporation.

Artwork: Alex MacLean, Untitled, 2010, photograph, Italy

パトリック・バーワイズ(Patrick Barwise)
ロンドン・ビジネス・スクールの名誉教授。経営管理論とマーケティングが専門。

ショーン・ミーハン(Seán Meehan)
IMDのマーチン・ヒルティ記念講座教授。マーケティングとチェンジ・マネジメント担当。

両者の最新の共著、Beyond the Familiar:Long-Term Growth Through Customer Focus and Innovationは、Wileyから2011年5月に刊行予定。