本誌2013年9月号(8月10日発売)の特集は「集合知を活かす技術」。HBR.ORGの関連記事の第4回は、クラウドを活用した考古学プロジェクトについて。科学者や探検家が、高度な技術と数万人のクラウドを味方にすれば、歴史上の謎がどんどん解き明かされていくかもしれない。


 偉大なる(架空の)考古学者インディ・ジョーンズは、その頭脳と独創力を駆使して史上最大の謎――聖杯のありか――を解き明かす。困難な問題に取り組む場合には、インディのような独立独歩の精神によるアプローチが中心になることが多い。個人や組織は、自力で解決策を見出そうとする。だが最近では、独立独歩の精神は新たなアプローチに道を譲ろうとしている。世界のあちこちにいる膨大な数の人々から成る、クラウドだ。彼らは従来の企業の取り組みをはるかに凌駕する規模、スピード、範囲で問題解決を支援しようと取り組んでいる(詳細は本誌2013年9月号「クラウドはビジネス・パートナーである」を参照)。

 アルバート・ユーミン・リン博士の例を紹介しよう。彼は、カリフォルニア大学サンディエゴ校の科学研究員であり、ナショナル・ジオグラフィック協会所属の探検家でもある。そして史上最大の謎――チンギス・ハーンの墓はどこにあるのか――を解くため、世界中の2万8000人以上の協力者を巻き込み、考古学界に新風を吹き込んだ。

 13世紀初期、チンギス・ハーンとその軍勢は、モンゴル草原を統一してモンゴル帝国を創設、中国北部と中央アジアを掌中に収めた。ハーンの死後も東は日本海、西はヨーロッパの一部まで帝国の拡大は続き、地続きの領土としては人類史上最大の面積を誇る。

 チンギス・ハーンの死は謎に包まれている。彼は自分の埋葬場所を秘密にするよう命じた。言い伝えによれば、葬儀に関わった人々は、途中で出くわした人間を皆殺しにして場所を秘匿した。そして彼ら自身もまた、秘密を守ろうとする別の軍勢によって残らず殺害されたという。何世紀もの間、世界各地の大勢の考古学者がチンギス・ハーンの墓を見つけようと試みてきたが、いまだに成功していない。

 この謎に魅了されたリンは、挑戦を開始する。工学博士のリンは、モンゴルの高解像度衛星画像と機械学習アルゴリズムを活用すれば、埋葬場所を特定できるだろうと考えた。ところが、すぐに問題にぶつかる。モンゴルは広大な国で、その地形は起伏に富むが、地図は十分整備されていない。アルゴリズムのためのデータを入手するには、何十万もの画像を処理し、正確に分類しなくてはならなかった。