育成プログラムを通じて「基準」が上がる

川名:プログラム終了後、参加者からどのような反応がありましたか?

ステンゲル:「ヤング・マーケッターズ・アカデミー」でも、「CMOアクセラレータ・プログラム」でも、参加者の皆さんのマーケティングに対する基準がぐっと上がりました。中には、「もう代理店を変える」と言った人もいます。まあ、そういう結論がいいかどうかは別として、それだけ鼓舞されたということですね。プログラムの最初に、カンヌをどう見るかという「レンズ」を与えましたが、このレンズを通して見ることによって、もう中途半端なものは許容できなくなったのです。皆さん、コカ・コーラやダヴやその他の大小さまざまなブランドの受賞作品を見て非常に影響を受けて帰っていきました。いろいろなアイデアを提供しましたが、評価基準が上がったということ、これが一番大きかったと思います。

川名:カンヌでは素晴らしい作品が見られるだけでなく、“裏側”ではジムさん開催のプログラムがあり、作品に関する話を小規模で聴けるというのはとてもいいですね。

ステンゲル:そういう形にカンヌが進化して、10年前よりずっと重要性が高くなってきました。今やカンヌで行ったことを自社でもやってほしいという相談もいただいています。

ビデオはブリーフィングをよりダイナミックにする

川名:ブリーフィングの話ですが、代理店側の人間としては、ブランド側がいいブリーフィングを出してくれると、とてもいい仕事ができるということをずっと感じています。代理店とブランドと両方が切磋琢磨しながらやっていくということが重要だと思います。

ステンゲル:そうですね。これまで機械的に取り組んでいた会社のブリーフィングが、ビデオ(動画)を使うとマーケッターは「自分のブリーフィング」ととらえることができるようになります。クライアントはブリーフィングの焦点を絞り、情緒的なものにすることが大切だと思います。

川名:ブリーフィングといえば「1枚の紙に書く」というものでしたが、今やダイナミックで情緒に訴えかけるようなものが必要ということですね。

ステンゲル:ビジュアルやビデオはこれからのWebのコンテンツでますます伸びていくでしょう。楽天の三木谷さんが投資をしたピンタレストは、とても女性受けがいいですしね。

川名:私はカンヌのツイッタービーチハウスで6秒の動画投稿アプリ「Vine(ヴァイン)」を入れるよう勧められました。

(第2回へつづく)

 

【注】
(1)Jim Stengel, Grow , 2011.邦訳は2013年、阪急コミュニケーションズより。
(2)ブリーフィングとはクライアントが広告会社に対して、このような広告を作ってくださいと伝えること、また、その伝達会議。 <原義はブリーフ(要約物)+ ING。> その際、使う資料がアドブリーフシートであり、海外では、A4一枚程度の分量のシートが用いられ、通常は、テキスト文章だけで綴られる。ブリーフィングで、クライアント・広告会社双方が、イメージを共有できればできる程、良い表現物が出来る可能性が高まる。