本誌2013年10月号(9月10日発売)の特集は「顧客を読むマーケティング」。HBR.ORGからの関連記事の第6回は、マーケティング・キャンペーンの迅速化について。マーケターが新興企業に倣い、時間と費用を節約しながら効果を高める方法を、事例とともに紹介する。


 大型の予算、大規模なキャンペーン、大量の報告書――。「大きい」ことを尊重する文化が、何十年もマーケティングの意思決定や予算配分を左右してきた。しかし、大きいものは扱いにくく時間もかかる。

 消費者がウェブサイトを離れるかどうかを数秒のうちに決める時代においては、マーケターは俊敏な新興企業のように行動する必要がある。リアルタイムで立ち回り、適応するのだ。我々は、大企業が新興企業のマインドセットを取り入れ、キャンペーンの開発期間を50%短縮した例を見てきた。

 以下で、スピードを速めるための4つの方法を紹介する。

1.試しながら学ぶ「テスト・アンド・ラーン 」を徹底する
 よく見られるのが、キャンペーンに関する財務的な目標はよく吟味され明確に設定されるのに、「顧客に関して何を学ぶか」については明確な目標が定められていないというケースだ。これとは対照的に、業績のよい新興企業は常に顧客に関する新たな洞察を求め、学習を深めながらアプローチを修正していく。

 学習目標の設定は、キャンペーンの費用対効果を高めるための第一歩だ。まずは、すでに学んだこと、そして来たるマーケティング・キャンペーンでとくに学びたいことを整理しよう(たとえば、「18才から25才までの人に○○をしてもらうためには、何を行えばよいか」など)。そしてキャンペーンを立ち上げる前に、学習目標のリストのなかで、どの仮説が試されるのかを確認しよう。

 旅行サイト「トリップアドバイザー」のCMOであるバーバラ・メッシングは、新たなサービスに資金を投じる前に、検討中の機能を「偽のバナー」で宣伝しコンセプトをテストする。ユーザーがそのバナーをクリックすると、「404 Not Found」のメッセージが現れる。クリックするユーザーが十分な数に達したら、その製品は開発されることになる。従来型のマーケティング手法、たとえば1セッション当たり1万ドルをかけるフォーカスグループなどと比べると、この方法はまったく費用がかからず、ユーザーが求める機能を素早く正確に読み取ることができる。

2.実験を奨励し、「まあまあ程度」を受け入れる
 失敗は、そこから学ぶことができれば失敗ではない。Yコンビネーターが出資するファッションの新興企業、ショップティクス(Shoptiques)の創設者であるオルガ・ビディーシバは、従業員にリスクを取ることを奨励している。独創的なマーケティング活動を展開するために自由に使える予算として、全従業員に1000ドルを与えており、「そのアイデアが失敗してもまったく構わない」と彼女は言う。「唯一求められるのは、事後にデータを分析し、キャンペーンから得た学びをシェアすること」。

 同社はすでに、このプログラムと考え方から収穫を得ている。ある従業員が、自社サイトへの訪問がSNSのピンタレストから多く発生していることを発見した。以来、同社はピンタレストをブランド・コミュニティ強化における重要なチャネルとして活用している。

 従業員にリスクを取ることを奨励する企業は、「まあまあ程度」(good enough)をよしとしなければならない。すでにまあまあのソリューションがあるのに、マーケターが何週間もかけて「完璧な」ソリューションを追い求めるのをよく目にする。日数を費やせば、その分だけコストがかかることを忘れてはならない。

 たとえば、フラッシュセールのサイトであるファブ・ドット・コム(Fab.com)では、売上げの70%がメールによるキャンペーンから生じている。仮に、実際にメールを送るのではなく、メールのキャンペーンを完璧なものにするために余分に1日費やしたら、同社は最大70万ドルを失うおそれがある。