一貫性のある1つの管理組織体という企業の定義にしたがって、私は、ある企業が外部の経営者たちをうまく自社に組み入れるには、企業内での経験を備えた経営者資源が必要だと論じた。したがって、そのような経験を「継承した経営者たち」の利用可能性が、ある期間において計画し実行することのできる拡張の規模を制限する。定義により、このような経営者たちは市場から調達することはできない。しかしそれは、企業の拡張に欠かせないインプットなのである。

 しかしながら、ひとたび大規模な成長が成し遂げられると、成長に投じられていた経営者サービスは、またその先の拡張に使えるようになる。このプロセスには、明白で回避しえない限界は存在しない。したがって、企業の成長率に対する限界は、必ずしも企業の最終的な規模を制限しない。さらに、経営陣の経験は増大していくし、彼らは企業のさまざまな資源についての知識や、それらを今とは異なる方法で活かす可能性についての知識をもっている。これらは、企業が自社の資源から引き出せるサービスをより有利に活かす方法を探していくなかで、さらなる拡張のインセンティブを生む。企業の既存の人的資源は、拡張の誘因と拡張率の限界の両方をつくり出す。組織の一貫性を保つためには、既存の経営者資源からのインプットを用いる必要がある。買収や合併による成長でさえ、このことが課す制約から免れえない。これがいわゆる「ペンローズ・カーブ」の本質である。この「ペンローズ・カーブ」は、数多くの文脈に応用されており、農業の事業にまで及んでいることには、私も驚かされた。

外部の事業機会

 企業成長の理論を展開するにあたって、企業内部の資源に注目するために、まずは「環境」の影響を脇におくことにした。企業成長に関わる環境、すなわち、企業者や経営者が知覚する投資や成長の一連の機会は、企業ごとに異なり、企業のもつ人的資源やその他の資源の特定の集合によって決まる。さらに、環境とは「外側にある」固定的で不変的な何かではなく、実はそれ自体、企業によって自らの目的に資するよう操作されうるものである。

「需要」に対する企業の関係を説明するには、以下のような問いかけをすればよい。企業はさまざまな生産資源を賦与されており、それらはいくつもの方法で用いることができるし、追加的資源の獲得によって増やすこともできる。そのような企業の成長が、いったいなぜ既存の需要によって制限されなければならないのか。企業が自らの成長の見通しや事業機会を、その現有製品だけにもとづいて考えるという理由は何もない。企業は、自社の生産資源や知識に照らして成長の見通しや機会を考えるはずであるし、それらをより効率的に使う機会を探しているはずである。そう考える理由はたくさんある。このことから、既存の市場があまり有利でなくなった場合や新しい市場の見通しがより魅力的になった場合、企業は多角化に向かうという1つの理論が成り立つ。

 供給サイドの成長コストの分析と結びつけた多角化プロセスの研究は、時代が進むにつれてかなり目立つようになってきた。過去数十年間にわたって他の研究者が行ってきたきわめて重要な展開や修正のなかには、米国の主要企業の成長に関するチャンドラーの卓越した歴史研究に負うものが多々ある。私の著書はチャンドラーの研究より若干早く、執筆に際してこれを利用していない。しかし、彼の研究は、環境変化の重要性も同時に強調しているとはいえ、少なくとも米国という環境においては、本書の理論的分析が適用できることを示す強力な証拠となっている。(後半につづく)

(第3回 は「第3版への序文」後半を紹介します)

The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition
by Edith Penrose
Copyright c Edith Penrose 1995
All right reserved
The Theory of the Growth of the Firm, Third Edition was originaloy published in English in 1995.
This translation is published by arrangement with Oxford university Press.

 

【連載バックナンバー】
第1回 半世紀を超えて、なお読み継がれる理由

 

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『企業成長の理論[第3版]』
企業の成長要因が、自社の資源であることを理論的に分析した経営書の古典的名著。著者ペンローズは、企業は自社内の人的資源の成長によって成長することを、本書で理論的に分析した。つまり、社員の能力アップやノウハウの蓄積、経営者の力こそ、企業成長の源泉である。『GMとともに』『組織は戦略に従う』と共に今日の経営学の礎を築いた必読書。A5判上製、371ページ、定価(本体4500円+税)

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