多国籍企業
最後に、国境を超えた企業の拡張について付言しておく。企業の国際的な成長──かつては在外企業、続いて国際企業、多国籍企業、超国籍企業、そして今日ではグローバル企業と呼ばれる──に対する関心は、1950年代以降急速に増大している。このテーマに理論的に取り組んだ初期の論文のつとしては、私の‘Foreign Investment and the Growth of the Firm’(Economic Journal 所収、1956年。1971年の The Growth of the Firms, Middle East Oil and Other Essaysに再録)がある。The Large International Firm in Developing Countries(1968)に代表される国際的石油産業に関するすべての私の研究は、この産業の大規模な国際的企業とそれらが事業を営む各国の経済ならびに世界経済に及ぼすインパクトに関する研究である。
多国籍企業をテーマとする研究は、20世紀の半ば以降、それらの存在感の増大にともなって急速に進んだ。私が示してきたように企業成長の分析の多くは、今日的な外国への直接投資による拡張に対してもおおむね同じように適用できそうである。すなわち、成長のプロセス、学習の役割、内部の人的資源およびその他の資源にもとづく拡張の理論、管理の役割、生産の多角化、合併と買収の役割は、この文脈でもすべて重要である。
もちろん国によってかなりの違いが存在するが、いくつかの生産要素は、きわめて動かしやすいだけでなく、任意の量やタイプの資本・経営者サービス・技術などをひとまとめにしたパッケージの形で、1企業の統合された枠組み内を移動しやすいという仮定をおけば、本書で示した企業成長の理論的枠組みで国際的企業の拡張のプロセスを捉えることは容易である。必要なのは、それらに特殊な利益機会、すなわち、活動を一国に限定している企業には利用しえないような機会とそれらに固有な障害とを分析するための、いくつかの補足的な「実証的」仮定を設けることだけである。これらの仮定の多くは、米国あるいは他のさまざまな国々のなかで拡大しつつある国内企業にも等しく適用できるだろう。しかし、きわめて大規模でグローバルな法人、すなわち「企業」の出現にともなって、すべてが新しいというわけではないが、企業の性質や企業と市場との関係について従来とは異なる分析を必要とするような、きわめて洗練された組織形態が普及してきている。