この問題に関しては、管理組織と経営業務の研究が特に重要であり、ウィリアムソン(1971)の業績は特に注目を集めた。とりわけ彼は、複数事業部制、すなわち「Mフォーム」の組織の発展と成長を記述した。この組織では、戦略的意思決定は大企業組織の頂点に位置する本社に集中し、本社業務は、戦略上のオプションを調査し、また、現業子会社の全般的管理を行う役割を担う「エリート」スタッフによって支えられる。彼の分析は取引コストの評価にもとづくもので、彼は企業が経営能力を拡大させる方法とそれを実現するために必要な組織の型を示した。
最近では、企業のコミュニティにおける労働者からトップ・マネジメントに至るメンバーの利害を束ねる企業「文化」に注目したもう1つのアプローチが、発展をみせている。これは、「新しい組織のコンテクスト」と呼ばれる比較的階層性の少ない管理組織の形態を強調するものである。そこでは、機会主義とは大きく異なるアプローチがとられており、機会主義に対抗するために契約上の方法を用いる代替案として、企業の管理のなかで信頼や協力を高めていく可能性が大きく強調されている。このアプローチは、社会学や組織論、そして、企業の社会哲学において信頼構築や責任が演じる役割に大きく依拠している。大企業の大半とまでいわずともその多くは、強力な社会的・心理的文化をつくり上げており、社内のマネジメントの有効性にそれらが果たすところは大きい。この代替的アプローチは、企業のマネジャーたちの協調を確保するためには、相互の信頼やコミットメントや共有された責任に関するイメージの構築が、財務的統制や契約よりも効果的な手段だとみなしている。
企業は、責任の分散や権限の委譲を広範囲に進めるために、マーケットに近い数多くの事業グループを創設することによって管理組織の階層を慎重に減らしている。このような事業グループは、それぞれ自らの経営者を擁しているが、あくまで企業の枠内の存在である。バートレット=ゴシャールは1994年の論文のなかで、ある大企業の経験を描いている。この大企業は階層制に則ったタイトな管理統制をやめ、企業内の多くの管理階層を大幅に削減し、多数のビジネス・「ユニット」をつくり出した。このビジネス・ユニットは、顧客やサプライヤーと直に接する小規模なチームとそれを率いる「前線の」マネジャーからなり、基本的に「支援」を役割とするミドル・マネジメント層がそれらをバックアップする。投資決定も含め、独立した意思決定を行うための高度な権限が委譲された前線のマネジャー兼企業者が多数配置され、小規模な「準」企業の集合体とでも呼ぶべきものがつくられたのである。
このモデルにおいては、高度の信頼、企業価値に対する従業員の一体化、目標到達において抜きん出ようという「ストレッチ」と呼ばれる個人の心理的インセンティブ、企業全体を網羅する効果的なネットワーク関係などをつくり出すことが、企業の管理上の凝集性を維持するためにきわめて重要である。このような考え方を構成する要素は、もちろん、多くの大企業の組織文化やエートスの特徴である。このタイプの業務組織は、きわめて操作的ではあるが「支援的な」指導と、より高次のレベルでの助言的なマネジメントを基礎として成り立っている。しかし、成長に対する企業内外からの圧力は、依然として果てしない。いかに強力な社会的・文化的紐帯であっても、企業の凝集性を維持するには不十分かもしれない。ポイントは、ビジネス・ユニットからいっそうの独立性を求める圧力が生じて、新企業が創設されるときに訪れそうである。しかし、これに関わってくる関係性や企業者精神の性質次第では、このような展開は私が企業の変質と呼ぶものの前兆となる可能性もあり、企業のコンテクストだけでなく市場のコンテクストにも違いが生まれるかもしれない。