『リピータビリティ』は、ベイン・アンド・カンパニーが3年間かけて行った研究をベースに執筆された。変化のスピードと不確実性が高まる世界において、相対的な適応能力と成長を維持する方法を調査したものだ。研究はまだ継続中だが、ここから得られた3つの統計数字を以下に紹介しよう。

1.現在、3分の2近くの企業が株主利益を毀損している。
 株式市場データが入手できた7万社のうち、4万2000社で株主利益(配当+株価上昇)がインフレ分を下回った。もちろん、過去20年間で大きく価値損失を引き起こした大企業、たとえばビベンディ、ゼネラルモーターズ、AOLタイムワーナーなども、このリストの一部だ。しかし、ここには投資家にまったく価値を提供できなかった、比較的小さな企業が何千社も含まれる。これらの小さな企業の損失分を合計すると、16兆ドルが失われたことになる。

2.並以上の利益ある成長を持続させていた企業は、全体の9%だけだった。
 過去10年間で、売上高と利益で5.5%の実質成長を遂げ、資本コストをカバーした企業の割合は、着実に減少している。ほぼすべての企業が目指しているにもかかわらず、である。

3.わずか100社で、合計10兆ドルの純利益を上げていた。
 大半の企業がインフレ分を上回るリターンを上げられなかったが、調査した企業の過去20年間の合計純利益は19兆ドル(インフレ超過分)となった。驚くべきことに、わずか100社でこの額の半分以上を稼いでいた。

 では、この上位100社は、どのようにして大きな利益を上げてきたのだろうか。

 うち約25社は、過去20年間にわたる商品価格上昇の恩恵を受けて利益を上げた(たとえば、石油1バレル当たりの価格は1992年には20ドルだったが、現在では100ドルになっている)。

 しかし、それ以外の企業は、大半が「偉大なる再現可能なモデル」と我々が呼ぶもののお陰で利益を上げていた(詳細は本誌2012年3月号「差別化のビジネスモデル」も参照)。そうした企業には、アメリカン・エキスプレス、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、ラーセン・アンド・トゥブロ、ハンコック・タイヤ、トヨタ自動車、オーラムなどがあるが、押しなべて成功を何度も繰り返す方法を見つけている。なかには、一時的にその方法を見失った企業もあるものの、長期的に見ればみな従来からの中核事業にシンプルに焦点を絞っているという特徴が見られる。それにより、利益の源泉を継続的に拡大し、また新しい分野にも進出することができる。

 企業の経営陣は、この100社から何を学べるだろうか。以下に4つのポイントを示す。

●過剰な複雑さを許容しない
 どこであれ複雑さを見つけ次第、徹底的に排除しよう。市場は変化し、技術は進化する。企業を動きの鈍い恐竜に変えるのは、社内の複雑さである。

●長期間で勝負する
 株式市場は時に気まぐれに見えるが、長期で見ると、株主価値はほぼ事業の業績に沿ったものとなる。アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスは言う。「我々には、長期間にわたって誤解される覚悟がある」

●最大の強みに焦点を絞る
 他社にはないが、自社にあるものに焦点を絞ること。自社にはなくて、他社にあるものではダメだ。史上最も見事な事業再生の1つに挙げられるアップルの復活は、製品ラインの縮小(4製品)、研究開発パイプラインと組織の簡素化によって実現できたが、それは偶然ではない。

●自社の最大の成功を何度も繰り返せるような、再現可能なビジネスモデルの追求を、戦略とする
 利益ある成長を長期間持続させた9%の企業は、その大半がシンプルさと集中を特徴としている。それらを活用して競合よりも素早く反応できる能力も、他社との違いとなっている。

 

HBR.ORG原文:When "Creative Destruction" Destroys More than It Creates June 27, 2012

 

クリス・ズック(Chris Zook)
ベイン・アンド・カンパニーのパートナー。同社のグローバル戦略プラクティス・チームの共同リーダー。著書に『リピータビリティ』(プレジデンド社、2012年)など。