ポーター対バーニー論争にどのように決着がついたのか、お聞かせください。
繰り返しますが、その論争は「場(業界)の選択」と「VRIOを満たす経営資源の保有」のどちらが企業の持続的競争優位(もしくは企業業績)への寄与度が高いか、というものでした。この業界選択と企業の内部資源それぞれがどれだけ企業業績に対して決定力を持っているのか、そしてその決定力はどちらが強いのかについては、リチャード・ルメルトが1991年に発表した『How Much Does Industry Matter?(業界とはどれほど重要なのだろうか?)』という論文で実証されています。この論文では、事業パフォーマンスを説明する基準にROAを用いていますが、このROAを説明する独立変数として業界効果(その事業がいかなる業界に所属しているか)と事業効果(その事業を特定するダミー変数)および企業効果(その事業がどの企業に属しているか)が設定されました。その結果、業界所属(第1世代の主張する業界ポジション)は、業績のばらつきのうち約15%を説明し、事業効果と企業効果を合わせるとそれが約45%を説明していることがわかりました。
つまり、平均的に言って、企業業績の約15%は業界ごとに異なる何らかの要素(例えば業界構造や規制環境等々)によって決定し、約45%は特定の企業や事業に固有の何らかの要素(例えば経営者の能力や保有技術、営業チャネルなどの内部資源の違い)に由来していることになります。この研究に引き続き、同じ仮説を異なるデータで証明する実証研究が続きましたが、業界効果と企業・事業効果の比率はやはり概ね約15%と45%、つまり1:3の割合でした。あくまで平均的にですが、様々な業種業界横断的な平均値として、この値はこれら理論の説明力を概ね代表していると考えられます。
話を前に進めると、上記の研究の結果言えるのは、第1世代の戦略論(業界選択)と、第2世代の戦略論(個別企業の内部資源)を合わせると、企業業績のばらつきの約60%程度を説明できるということです。この6割という数字をどうとらえるか。業界選択や内部資源の評価・選別・活用計画の策定という両世代の理論に基づく「事前意図的戦略」が、将来の企業業績のばらつきの6割を決定するとすれば、現在各企業で続く戦略構築も綿密にやれば将来業績のそれだけの割合を決定できるという意味では大きなものでしょう。一方残りの4割は、統計的には「説明不能な誤差項(unexplained error term)」です。事前意図的な合理的資源配分のプランニング(第1世代+第2世代)ではどうにも説明できないばらつきなのです。
では、その4割の部分はどのように解釈すればよいのでしょうか。
先ほど申し上げたように、100のうちの60%が場の選択やVRIOによって左右されると考えるとすると、残りの40%は “pure luck (純粋なる運)”、もしくは不確実性によるものと考えられます。いくら丹念に事前意図的に戦略(経営資源配分)を決めておいても、残り40%の不確実性によってやはり業績は撹乱されるということです。この予見不可能性・不確実性には例えば東日本大震災やリーマンショック、突然の洪水や火山爆発など、近年も引き続く様々な事象が含まれます。競争の軸が忽然と変わってしまうような破壊的イノベーションの出現も、技術の不確実性としてこの4割に含まれると考えてよいでしょう。