この不確実性の部分を経営学者たちはどのように理論化しているのでしょう。

 不確実性を重視する理論が、第3世代です。ヘンリー・ミンツバークの創発戦略(偶発性を重視する経営資源配分の決定パターンを指摘) 、レノ・トリジャージスらの主張するリアル・オプション理論(高い不確実性を前提に企業行動の時間的価値を重視する投資意思決定の考え方)、クレイトン・クリステンセンの破壊的イノベーション理論(技術革新の不確実性)、そしてヘンリー・チェスブローのオープンイノベーション(技術革新の不確実性に注目)などが代表的です。これらの詳細については稿を改めましょう。

岡田 正大
(おかだ・まさひろ)

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授。
専門は企業戦略理論および包括的(BOP)ビジネス。「包括的(BOP)ビジネス企業戦略フォーラム」主宰。
経産省BOPビジネス支援センター運営協議会委員、同新中間層獲得戦略研究会委員。早稲田大学政経学部を卒業し、本田技研を経て、慶應義塾大学MBA。Arthur D. Little(Japan)でIT産業における戦略コンサル後、渡米。Muse Associates社(代表:梅田望夫氏)フェロー。オハイオ州立大で経営学Ph.D.を取得。

 第4世代はまだ1つの世代としてひとくくりにできるほどには明確になっておらず、第4世代というには憚られますが、要は様々な理由から既存の戦略理論の重要な前提に修正を迫る考え方です。オープンソースやロングテール、CSV(共通価値の創出)などが代表的なものです。オープンソースはRBVが重要な要素とする「希少性」(価値ある資源は他社に使わせるべきではないという考え方・価値観)をある意味否定しています。技術資源の本領を発揮させるには、それらをことごとくパブリックドメインに置いて解放することが必要という主張です。こうした「共有」から生じる価値を既存の伝統的戦略論はあまり得意としていないのです。ロングテールはインターネットの発達を前提に、既存の現実では常識だった「20:80の法則」に再考を促すものです。

不確実性を重視するこれらの理論で、最も注目すべきものは何でしょうか。

 すべて注目に値します。ただもっとも新しいという意味では、CSV(共有価値)が新たな戦略論の1つのフロンティアになり得ると考えています。社会的便益の増大と排他的所有に基づく経済的価値(利潤)の最大化を両立させるだけでなく、両者にシナジーを生み出す条件を探索することは、これまでの戦略論の枠組みでは説明できる部分とできない部分があります(後述)。

戦略論の中で、不確実性に重きを置く主張が増える中、RBVやポジショニング戦略は今後も有効ですか。

 確かに、不確実性は重視されています。しかし、第1第2世代の戦略論で説明され得る企業業績のばらつきの割合が平均的に6割あることも事実です。業界の構造分析、内部資源の分析を綿密に行って資源配分を設計することで将来の業績のばらつきを6割コントロールすることができるとすれば、その役割は依然として大きいのではないでしょうか。戦略を立て、大きな誤りを犯さないこと、自分たちがビジネスをしている業界が利益の上がりやすい魅力的な場所なのか否かの判断(第1世代)。どの資源を中核に据えて戦略を構築すべきなのか(第2世代)。こうしたことを判断するためにも、既存の戦略論は有用だと考えられます。

(つづく)

連載後編ではこれから注目されるCSVについて、詳しくお話を伺います。
次回の公開は10月23日(水)の予定です。

【注】
企業の経営資源を分析するために使われるフレームワーク。Value(経済価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織)の観点から、自社の経営資源を分析する。VRを満たす資源は一時的競争優位、VRIを満たす経営資源は持続的競争優位の源泉となる。