本連載の要約
最後に本連載を要約する。包括的ビジネスとは企業の営利事業を通じて社会的価値と経済的価値双方の最大化を図る企業活動であるが、そこにはいまだ思想や価値観をめぐる対立や、セクター間の理解不足が存在している。その一方で、社会性・経済性双方を統合する観点から企業の営利事業を評価することに対しては、インパクト・インべスティングやESG投資という概念の台頭が示す通り、そのニーズはさらに強まることが予想される。
実務的観点からは、日本企業が今後自社の事業特性や競争力の源泉に応じ、確固たる戦略的意図(野心)を持って開発途上国市場へ参入し、社会性と経済性の相乗効果を企図して事業を開発することは不可避であり、そのためのノウハウも様々に蓄積が進んできている。
だが一方で、そうした統合的企業価値評価の理論と手法にはいまだ標準といえるものが確立しておらず、かつその確立へ向けた理論的技術的ハードルは高い。なぜならば、既存の戦略理論のゴールが経済的価値にのみ基づく持続的競争優位である点を鑑みると、それを複合価値に転換することは戦略理論というディシプリンそのものの属性を大きく書き換えることを意味しており、ひいては企業概念や資本市場そのものの変質を迫るものとなるからである。(おわり)