具体的な評価項目についてみてみると、GRIの場合、経済・社会・環境の3分野にわたる6領域(経済、環境、人権、労働慣行とディーセントワーク〈働きがい〉、製品責任、 社会)で計70指標を評価対象とし、それら各指標の調査項目は合計で400余になる。IRISも評価項目が網羅的(調査項目数はほぼ同数の合計約400)である点は同様だが、一般共通項目と業界セクター別(例えば農業、教育、エネルギー、環境、金融サービス、医療等)の項目という2本立てになっている。共通項目で一貫しているGRIと個別セクターの特殊性を反映できるIRISのどちらが優れているかはその利用目的にも依存するため、一概には言えない。

「ボトムアップ・現場型」の評価手法

 一方「ボトムアップ・現場型」は、特定の開発目標を持った組織が自身の活動を実地に日々検証し、その場で結果をフィードバックしてはすぐに軌道修正を行って、より効果的な活動とするために開発された手法である。

 代表的なものとしては、例えばグラミン財団によるPPI: Progress out of Poverty Index(貧困脱却度指数)がある。この指標は、実際に貧困解消の活動に従事している者自身が評価者となり、各家庭の現実の状況(家族数、教育水準、保有する生活家具の数と種類など)を評価項目として、時系列的変化を測定することによって貧困の解消度を評価するものである。この種の指標の特徴は、現場の状況に即して生まれてくる指標であるため、適合度が非常に高いこと、シンプルで評価しやすいため誤謬の余地が少ないこと、測定コストが安価なことなどである。

 総じて、網羅的な指標(GRIやIRIS)は精緻で抜け漏れが少ないものの、評価項目が膨大であり、測定自体の難易度が高く、コストも(現場型と比べ)相対的に高い。一方現場型は測定も容易でコストも安く、理解しやすい点は網羅型にない利点であるが、測定対象がせまく限定的である。

注目すべき2つの手法

 筆者が注目するのは、ボトムアップ・現場型の利点(シンプルで簡便かつ低コスト)を備えつつ、業種業界横断的な比較容易性を担保しているREDF(The Roberts Enterprise Development Fund:注2)のSROI手法(注3)と、事業のライフステージ(後述)ごとに社会的成果を評価しようとするUNEP(国連環境プログラム)のTowards Triple Impactである。

 まずREDFによるSROIの特徴は、筆者が調査した手法の中で唯一、「融合価値(blended value)」として社会的成果と経済的成果を統合する指標を提示している点にある。この統合は基本的に、両者を金銭的価値に換算して合算し、長期負債額を差し引くという単純なもの(Enterprise Value + Social Purpose Value - Long-term debt)である。まず単年度の融合価値を求め、次に将来の予測を行って、最終的に融合価値ベースの正味現在価値を算出してから長期負債額を引き去る。

(注2)世界有数のプライベートイクイティファンドであるKKR (Kravis Kohlberg Roberts & Co.)のジョージ・ロバーツが設立した慈善団体で、非営利組織の運営する収益事業への投資を行う。
(注3)REDF (2001) REDF Social Return On Investment Methodology.
こちらでダウンロード可能。