実はこの手法は、主にカリフォルニア州内の非営利組織が営む収益事業を評価するために考案されたもので、決して開発途上国の包括的ビジネスを念頭に置いたものではない。しかし、この手法には他の手法にはない、包括的ビジネスに適用できる2つの利点・特徴がある。1つは経済的価値も社会的価値も金銭的価値への換算を行うこと、そして金銭的価値への換算可能な効果に割り切るがゆえに測定が比較的容易である、ということだ。

 次にUNEP(国連環境プログラム)の手法であるTowards Triple Impactは、特に製品の事業ライフサイクル(原材料調達から始まり、生産、包装・梱包と流通、製品の使用、製品の廃棄、製品のリサイクル、原材料の調達へ戻って一巡)の各プロセス毎に社会的・経済的インパクトの評価を行う。ここに他の手法にない特徴がある。

 本稿では、金銭的価値への収束をベースに「複合価値」の算定を可能にするREDFの考え方に、事業ライフサイクルの視点を持つTowards Triple Impactを組み合わせることにより、開発途上国における貧困解消をもたらす営利事業の評価基準を提案することとしたい。

「複合価値」算定の具体例

 具体的には、まず社会的成果に関しては、原材料調達から始まり、生産、包装・梱包と流通、製品の使用、製品の廃棄、製品のリサイクルに至る一連のライフステージごとに、関与する利害関係者に直接もたらされる多様な価値創出を、可能な限り金銭的価値に換算して評価する。例えば供給業者に新たな契約がもたらされるのであれば、それは年間どれほどの規模なのか。またその事業地域に新規雇用が創出されるのであれば、それは年間でどれくらいの所得増加をもたらすのか等、すべて金銭的に評価する。次にその事業から得られる年間キャッシュを計算し、両者を合算して単年度の「複合価値」とする。

 筆者は、このような手法でグラミンダノン社の事業評価を試行的に行った(岡田2013:注4)。その結果、同社の2009会計年度における社会的価値は5762万タカ、経済的価値は-2331万タカ、つまり同社は2009年度中において差引3431万タカの融合価値(blended value)を創出したことになる。このような単年度の複合価値を数年度先まで予測することができれば、同事業の資本コストによる割引を行って複合価値の現在価値を求めることができる。

【表3】グラミンダノン社の単年度「複合価値」
(公表資料および筆者の現地取材に基づく推定を加えたもの)

(注4)岡田正大(2013)「包括的ビジネス・BOPビジネス研究における社会経済的成果の統合的評価の重要性とその方法について」『持続可能な発展とイノベーション』、p.183-207.