第2の条件として、最終的に社会的成果が可能な限りにおいて定量的に測定されていることが求められる。たしかに業界・業種特殊な指標を設定すれば、きめ細かな測定が可能になり、抜け漏れも少なくなるだろう。しかしそれでは例えば企業内で複数の包括的ビジネスを異なる業種にまたがって行おうとする場合、横断的比較が不可能になってしまう。経済的利益と各利害関係者への社会的成果が、共に金銭的表現で測定されることが理想である。その際、定性的な成果項目で金銭価値への換算が困難なもの(例えば低所得者の人々の自己効力感の向上など心理的項目)は測定対象から漏れてしまうかもしれない。だが、それは今後の別領域の研究に委ねることとして、本項ではプロジェクト横断的比較可能性を優先し、敢えて省かざるを得ないと判断する。

 第3の条件、そして実務上最も重要と思われる条件とは、評価方法が十分に安価で簡便に実行可能であることだ。これはアキュメンファンドが社会的成果の評価手法が満たすべき条件としてあげる1)理解のしやすさ(understandability)、2)低コストで簡便(inexpensiveness)、3)効果的で役に立つ(usefulness)の2番目にも挙げられている。企業にとって自社事業の社会的成果の評価は不慣れな領域である。よって外部へ委託するにせよ、自社内部の人材で取り組むにせよ、それがあまりに複雑であり、よって高価につくしろものであった場合、社会的成果の評価自体が忌避され、行われなくなってしまう可能性が高くなる。これでは社会経済的成果の融合を目指す立場からは本末転倒である。よってこの安価で簡便という条件は、十分に満たされなければならないだろう。

「網羅・包括型」の評価手法

 実際に、社会的成果・開発成果を測定する既存の手法群を眺めてみると、様々な国際機関、非営利団体がそれぞれの立場から独自の手法を提案しており、いわば百花繚乱状態である。多種多様な評価手法を比較検討するためだけに書かれた研究論文が複数存在するほどである。そして一般にそれら手法群は大きく2つに分類可能である。

 1つは「網羅・包括型」、もう1つは「ボトムアップ現場型」である。まず前者は、当該営利事業が多様な利害関係者にもたらすあらゆる経済的・社会的・環境的インパクトを網羅的に補足しようとするものである。このタイプの評価手法で代表的ものとしては、GRI(Global Reporting Initiative)やIRIS(Impact Reporting and Investment Standards)がある。共に非営利団体(GRIは文字通りThe Global Reporting Initiativeが、またIRISはロックフェラー財団等が主催するGIIN:Global Impact Investing Networkが開発主体)が開発し提唱する評価手法である。

 GRIは企業が自社の事業活動を対外的に報告する際に用いることが想定され、IRISはインパクトインベストメント(社会・環境的成果を上げる事業への投資)に従事する投資家サイドが、投資対象案件を評価することを想定して構築されている。いくつかの企業も対資本市場への開示指標としてIRISを用いているが、IRISのユーザー登録をしている約100団体を分類すると、やはり投資家セクターが75%以上を占め、企業ユーザーは15%に過ぎない(同団体ホームページの登録者一覧に基づく)。