従業員の幸福は、CEOの間や役員会議の場で注目の話題となっている。だが給料と休暇を十分与え、著名なシェフのランチを無料で提供すれば済む話ではない。ベイン・アンド・カンパニーの好評連載、第8回。
従業員の幸福は、CEOの間や役員会議の場で注目の話題となっており、まさに機が熟したと言って良いだろう。 従業員の幸福度に注目した一連の記事を含むハーバード・ビジネス・レビューの直近の号は、幸せでエンゲージメントの高い従業員はそうでない従業員と比べて生産的で企業にとって望ましい結果をもたらす、ということへの認識が広がりつつあることを表す一つの例に過ぎない。
だが、「幸福度」にこれだけの注目が集まっていることのリスクも存在する。幸福度そのものの向上だけを目指すことは適切ではない。幸福度の高い従業員を求めるのであれば、単に給料を多く支払えば良いだろう。また、たくさんの休暇を与えれば良い。著名なシェフのランチを無料で提供することも1つのアイデアだ。ところが実際は、企業に持続的な便益をもたらすことが出来るのは従業員を「幸福」にするほんのわずかな項目だけである。グレッチェン・スプレイツァーとクリスティーン・ポラスが最近のHBR記事の一つで示しているように、「それは独りよがりの満足とは違うものである。」
私も同僚もそれに賛同する。我々は、従業員のエンゲージメントと顧客ロイヤルティの関連性を数年に亘って研究してきたが、株主価値の向上につながる従業員満足は、重要な仕事において優れた成果を出すことで得られる充実感を通じてのみ実現可能であることが分かった。従業員を「幸福」にするだけではなく、彼らが大きなことを成し遂げることを支援しなければならない。簡単に言うと、従業員が顧客の情熱的な支持を得られるようにサポートしてあげることで、彼らに企業のミッションと成功の情熱的な支持者になってもらうべきだ、ということだ。
もちろんそれは大きな願望である。そしてそれは、従業員エンゲージメントと企業の成功の究極的な源である顧客がもたらす結果を必然的に結びつける。ほとんどの企業が実施している従業員エンゲージメントの追求方法では、正しいエンゲージメントを達成することが出来ない。成功のために必要とされるいくつかのことを下記に示そう。
1.ラインマネージャーが真に責任を負う。ほとんどの大企業は従業員のエンゲージメントを測定し管理することを人事部に頼っている。人事部がフィードバックを回収し、分析し、組織を通じて「落とし込み」を行う。改善のための提案とともに、まずはCEOから始まり現場職員まで段階的に落とし込まれていく。だが、これでは管理、所有、そして責任を本社チームの手中におさめておくことになる。
真のエンゲージメント――情熱ある支持――は顧客の生活を豊かにした結果もたらされるものであり、従業員がそれを達成するために人事部単独で支援出来ることは限られている。したがって、アップルストア、ジェットブルー、そして他のいくつかの企業は、調査結果を現場の改革を主導出来るような現場のマネージャーに直接伝達する。もしかしたらより重要なことは、マネージャーが結果に対する完全な責任や進歩を感じられることかもしれない。例えば、アップルでは、従業員のあるグループが集まって、調査票に基づいて鍵となるテーマや課題を抽出する。更に解決案をストアマネージャーに提案することで解決策の策定を支援する。マネージャーは、次の調査票が出回る頃にはそれらの解決策が望んだ結果をもたらしたかどうかを確認することが出来る。