競争優位は持続するか
それでは企業はどのようにケイパビリティの獲得、拡大に向かうべきなのでしょうか。
まずは変革的なリーダーが必要となります。やはりリーダーの力というのは、成功する企業にとって欠かせないのです。そうしたトップのコミットメントがあることで明確な戦略を描くことができ、価値観を共有することができるのです。一方で、戦略をしっかり描かけているのに実行できていない企業が多いのも事実。それは、戦略が実務レベルまで階層を下がってくる間に、付加価値をつけようと考える「真面目な」人々によって、歪められてしまうケースが非常に多いからだそうです。
では、変革的でないリーダーを動かすにはどうすればよいのでしょうか。
「実際の成功例を見せて、勝ち馬に乗せるのが一番です」と佐藤氏。周囲の成功によるプレッシャー(ピア・プレッシャー)はその最大の加速力となります。ケイパビリティは業績改善につながるものでなければ意味がないのは当然のことです。さらにそれがどれだけの効果を出しているのか、絶えず測定をすることが重要です。この結果をきちんと見せれば人は動いてくれるものです。しかしながら、実際にこの測定がなかなか行われていないケースはよく見られます。ケイパビリティはそこをしっかり問うことが重要なのです。 こうした測定と仮説検証を行い、情報収集を絶えずして集合知をうまく活用している企業は、持続的な競争優位を築けているそうです。
優秀な人の持つケイパビリティとは何か
競争優位の源泉となるケイパビリティは、一級人材を揃えればよいというものでもありません。むしろ誰に何をさせるかが重要なポイントです。「優秀な学生」という評価は、学校教科の中でやるべきことを理解しているために得られるものです。しかし「優秀な社会人」となると、そもそも何を身につけなければならないのかが日本では曖昧となっているのが現状です。その身につけるべき「何か」の一つがケイパビリティなのです。
それでは優秀な社会人となるために、自分自身の競争優位を追求するとどうなるでしょうか。例えば専門性を追求した場合、ほかの可能性を狭めてしまうという懸念も生じます。ほかに能力を活かす術を見出せないスペシャリストは、確かに否定的に見られがちな風潮がありました。しかしながら戦略を掘り下げる上では、問題を細かく噛み砕き具体化するというスペシャリストの持つ能力も重要であることは間違いありません。
本当に優秀な人というのは、スペシャリストの視点をメタレベルに昇華する力をもったジェネラリストであり、さらに周囲からイニシアティブ・リーダーだと認められる人なのです、と結ばれました。
勉強会後には交流会も開催
これまで「もっと時間が欲しい」「参加者同士の交流をしたい」というご意見をたくさんいただいており、今回初となる交流会も勉強会後に開催しました。今回は金曜日ということもあってか、佐藤氏を含め14名の方が交流会まで出席くださいました。お酒を片手に活発な議論を交わしている姿を見て、読者の方々の熱心さにますます励まされました。大変満足とのお言葉もいただき、そのような空間を提供できたこともまた、喜びでした。
事例を交えつつ、非常にわかりやすく噛み砕いてのプレゼンテーションをいただいた佐藤様、ならびにご参加いただいた皆様に深く御礼申し上げます。
今後は12/2(月)に平野正雄氏(早稲田大学商学学術院 教授)を、12/18(水)には瀧本哲史氏(京都大学客員准教授)を講師にお招きして、それぞれ勉強会を開催予定です。参加希望の方は、奮ってご応募ください(当サイト内「お知らせ」に募集要項を掲載しております)。
佐藤 克宏(さとう かつひろ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー プリンシパル。慶應義塾大学法学部卒業。スタンフォード大学修士課程修了。日本政策投資銀行を経て現在に至る。マッキンゼー日本支社におけるエネルギー・素材業界研究グループおよびマーケティング・アンド・セールス研究グループそれぞれのリーダー。マッキンゼーのC4P(capability for performance;クライアント企業における業績向上を目指したケイパビリティ構築)イニシアティブのリーダーでもある。