人はロジックだけでは動かない。しかしオリンピック東京招致のスピーチに見るように、感動するスピーチの裏にはきちんとした構造があった。『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』やビジネス各紙のコメントで有名な佐々木氏の連載、第3回はいよいよ、心を揺さぶるストーリーの描き方、語り方に迫る。
ストーリー(物語)とは、出来事を分析せずに、起きた順に沿って描写する伝え方です。人類は大昔からこのやり方で、世代を超えて大切なことを語り継いできました。物語として伝えられると、私たちは、まるで自分が主人公になったかのように、感情移入して、出来事を疑似体験します。そのため、心が揺さぶられ、話が記憶に焼き付くのです。
スピーチでは、ストーリーを効果的に用いることで、共感を誘い、聴き手の感情を刺激することが可能となります。また、実際に起きたこと、感じたこと、考えたことを率直に語ることで、話し手の人となりが伝わるため、信頼できる人物かどうかの判断材料を聴き手に届けることが可能となるのです。
それでは、聴き手の心を揺さぶり、信頼を感じさせながら、効果的にメッセージを届ける。そんなストーリーを語るためには、どうすればよいか? 具体的には、次の3つの点を満たすことが重要となります。
第一に、効果的な流れでストーリーを語ること。事件(状況設定)→葛藤→解決→教訓、という流れが基本です。感動する映画やドラマは、多くの場合、この流れで構成されています。
第二に、情景と心理をありありと描写すること。目をつぶれば、まぶたに映画のワンシーンが映し出されるくらい、細部までリアルに表現すること。特に、葛藤の場面では、心のつぶやきをそのままに描くことが大切です。
第三に、思い切った自己開示を行うこと。最近の研究でも、信頼されるリーダーには、人間らしさ、温かさが求められることが明らかになっています。うまくいったことだけでなく、成功に至るまでの道のりで経験した困難や葛藤を、包み隠さず打ち明けることで、聴き手は、話し手が生身の人間であり、自分の弱さを認める勇気を持つ、率直な人間であることを感じます。このことが、話し手に対する信頼感にもつながるのです。