思いと経験を率直に語る
オリンピック東京招致の成功に、佐藤選手のストーリーが大きな役割を果たしたことは、多くの人が認めるところです。その他にも、これまでに人々を感動させたスピーチは、大抵の場合、経験談というストーリーが語られています。人生で学んだ3つの話をしたスティーブ・ジョブズの「伝説のスピーチ」は、あまりにも有名です。その他にも、東京造形大学の諏訪敦彦学長が、2013年の入学式で行ったスピーチも自身の経験談を語ったものであり、感動を呼ぶ素晴らしいものでした。経験談というストーリーには、不思議な力があるようです。
私たちは誰でも、他人には決して真似のできない独自の経験を持っているはずです。そんな世界でただ一つの経験談を語ることで、全ての人が、自分らしさを活かした最高のスピーチを行うことができるのです。
「ビジネスマンは、学者ではないのですから、経験談を語ることが大切なのです」。かつてソニーでお仕えした盛田昭夫会長は、こんなことをよく言っていました。一般論は学者の仕事であり、ビジネスマンの仕事ではない。ビジネスマンは、ビジネスの実体験を通して学んだ経験談を語ることで、世の中の役に立つことができると言うのです。
私たちは、スピーチを依頼された時、高尚な話をしようと、つい肩肘が張ってしまいがちです。私もそうです。私にとってこの連載は、読者の皆さんへのスピーチのようなものですが、執筆に際して、しっかりしたことを書かなければとつい肩肘が張っていまい、いろいろな本や論文を読みあさって、最初は一般論を書こうとしてしまいました。
しかし、それでは自分らしさを出しづらく、なかなか納得いくものが書けませんでした。締め切りが迫る中、最後は、自分の思いと経験を率直に語ろうと決意しました。連載第1回のタイトル「勇気を出して、思いを語れ」は、実は自分自身に言い聞かせる言葉でもあったのです。
最近、注目されているTEDトークが人の心を動かすのも、世界でただ一つのストーリーを語っているからです。世界をもっと良くしたいという熱い思い。まだ、誰もやったことがないことへの果敢な挑戦。その過程で遭遇する数々の葛藤。そして、身をもって学んだ教訓。そうしたことを包み隠さず語る姿勢に、聴き手は心を揺さぶられるのです。
世界でただ一つの、自分だけのストーリーを語る。これが、感動の秘訣なのです。
いよいよ次回は最終回。未来に向けてのストーリーである、ビジョンの語り方について解説します。
(つづく)
*第4回は2003年12月24日公開予定です。
【連載バックナンバー】
第1回 勇気を出して、思いを語れ
第2回 オリンピック東京誘致、チームジャパン成功の秘訣
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