ビジョンを語る際の“説得技法”
ビジョンを語り、人々に行動を促すためのスピーチを行う際に、アラン・モンローの説得技法を用いることが効果的です。これは、①アテンション(注目)→②ニーズ(必要性/問題点)→③ソリューション(解決策)→④ビジュアライゼーション(視覚化)→⑤アクション(行動)、という流れでスピーチを構成する方法です。
オリンピック東京招致のプレゼンテーションで、チームジャパンが成功した要因として、グローバル・ビジョンをアピールした点が挙げられます。日本が、一国の利益を超えて、スポーツの価値をグローバルに広めることで世界平和を実現するという、オリンピック精神を持って開催に臨むことを示したことが、IOC評価委員の信頼を得ることにつながったのです。
詳細は安倍首相のスピーチで語られましたが、その際にモンローの説得技法の流れが用いられています。以下に見ていきたいと思います。(日本語訳は、『ハフィントンポスト』「オリンピック東京プレゼン全文、安倍首相や猪瀬知事は何を話した?」2013年9月8日を元に作成)
①アテンション(注目)
まず、冒頭で聴き手の注意を引きつけます。安倍首相は自らの経験を語り、日本人は心からオリンピック運動の価値を理解していることを示しました。ここでは、より直接的に、ビジョンを示すキーワードを端的に語る方法も効果的です。
「私は本日、はるかに重要なメッセージを携えて参りました。それは、私ども日本人こそ、オリンピック運動を真に信奉する国民であるということです。その最たる例が私です。
私は1973年に大学に入り、アーチェリーを始めました。その理由は、その前の年に開催されたミュンヘン・オリンピックで、アーチェリーがオリンピック競技種目に復活したからです。すでにその時、私のオリンピックへの愛が芽生えていたのです。
今でも、こうして目をつぶると、1964年の東京大会開会式の情景が目に浮かびます。一斉に放たれた、何千という鳩。紺碧の空高く、5機のジェット機が描いた五輪の輪。その何もかもが10才だった私の目を見張らせるものでした。」
②ニーズ(必要性/問題点)
次に、なぜ、そのビジョンを追及することが必要なのか、その理由について述べていきます。安倍首相は、オリンピックが世に残すものは、造られた建物ではなく、スポーツの価値を知り、その価値を世界に広めようと目覚めた人を育てる点にある、という考えを主張しました。ここでは、ビジョンを持つに至った背景ストーリーを語ることも効果的です。
「スポーツこそが、世界をつなぎ、万人に等しい機会を与える。オリンピックの開催を通じて、私たちはこのことを学びました。オリンピックの遺産とは、建築物や、国を挙げて推進したプロジェクトばかりを言うのではない。開催を通じて育った人こそが大切なのだ。オリンピックの精神が、私たちにこのことを教えてくれました。」