組織は分断するものであり、リーダーはこれを統合する者である。迅速な意思決定を行うシンクロされた組織へと変革するのは、生易しいことではない。私の経験から言えば、この重大な変革を成し遂げたのは、フォード・モーターのアラン・ムラーリーやアップルのスティーブ・ジョブズのような、ごく少数のリーダーしかいない。

 実現を望むリーダーは、下記の教訓を肝に銘じるとよいだろう。

1. 組織内の2%の社員が、残りの98%に多大な影響を与えていることを理解しよう。私はこれを「98対2の法則」と呼んでいる。縦割り組織は、狭い専門知識と視野を持った社員を育ててきた。そのため多くの企業で、影響力を持つ2%の社員は統合に必要な能力と資質を備えておらず、しかるべき対策が求められる。そのなかには、顧客に魅力的な価値を提案する姿勢と意欲、そして異なる意見を取りまとめて最適なトレードオフを行う能力も含まれる。意思決定者の価値観に、特に注意を払うこと。そしてコラボレーションが得意でなければならない。ワンマンで仕事をしてきた者には、この改革は困難か不可能である。

2. 「統合のメカニズム」をつくり、厳格に実践しよう。あなたはリーダーとして、直接関与しながら統合に弾みをつけなければならない。フォードの統合を図るうえでムラーリーは、毎週木曜日に経営チームを招集した。欠席することは許されなかった。彼が会長兼CEOに着任してから経営チームのメンバーはほとんど変わっていないが、ヘンリー・フォード時代から引き継がれてきた縦割り組織の対立は、いまは存在しない。毎週の話し合いのおかげで、戦略とオペレーションの両面でメンバーの足並みは揃っている。現在はCOOのマーク・フィールズがこの統合メカニズムを動かしている。アップルの顧客志向の技術革新や、ウォルマートのスピーディーな在庫・価格調整は、それぞれスティーブ・ジョブズとサム・ウォルトンが巧みに動かしてきた同様のメカニズムの成果にほかならない。

3. KPI(主要業績評価指標)やインセンティブが、組織のシンクロや統合を後押しするようにする。報酬の一部を共通目標に連動させて、部門間の協力を促進する。

4. 逸脱行動があった場合に、リーダーがもれなく介入し、正していくことで企業文化は変わる。統合につながる行動や価値観を身をもって示し、潜在的な衝突を迅速に解消するには訓練と能力が必要だ。協同作業を通じて社員の姿勢は変わり、活力が生まれていく。統合になじめない者は、自分から離れていく。

 求められる顧客経験をタイムリーに提供できず、スピードを欠く企業は、あっという間に転落する。すでにそうなった企業もある。その憂き目を見ないためには、統合力を新たな中核能力として、CEOを筆頭に組織全体にわたって築くことが不可欠である。


HBR.ORG原文:One Microsoft. Four Ways to Integrate Fiefdoms. July 23, 2013

 

ラム・チャラン(Ram Charan)
経営コンサルタント。ハーバード・ビジネススクール元教授。著書にBoards That Lead(邦訳『取締役会の仕事』日経BP社)ほか多数の単著・共著がある。